【目 次】 [Ⅰ 「旧約聖書」から生まれた宗教]
[Ⅱ 日本人とイスラーム]
[Ⅲ イスラームの基礎知識]
[Ⅳ イスラームの世界]
[Ⅴ イスラーム法の基礎知識]
【キーワード】 [イスラームの用語]
[アッラー][六信五行][ジハード][ハラール]
[女性の服装][同態報復法]
◇イスラームの用語
従来、一般的に使用されてきたイスラームに関する用語が、
今日では、変更されています。
宗教の名称: (旧)「イスラム教」「イスラーム教」「回教」「マホメット教」
⇒ (新)「イスラーム」
信者の呼称: (旧)「イスラム教徒」「イスラーム教徒」「回教徒」
⇒ (新)「ムスリム」」
教祖の名前: (旧)「マホメット」 ⇒ (新)「ムハンマド」
聖典の名称: (旧)「コーラン」 ⇒ (新)「クルアーン」
聖地の地名: (旧)「メッカ」 ⇒ (新)「マッカ」
Ⅰ 「旧約聖書」から生まれた宗教
1 「信仰の父」アブラハムの子孫
⑴ アブラハムの系図
サラ
‖————— イサク ………… ダビデ(猶太教=ユダヤ教) ………… イエス(基督教=キリスト教)
アブラハム
‖————— イシュマエル ………… ムハンマド(イスラーム)
ハガル
⑵ 共通の父祖
猶太教・基督教・イスラームの三教は、共に、「アブラハム」を「信仰の父」としています。
⑶ 異母兄弟
ダビデ・イエス(猶太教・基督教)は、サラの子イサクの子孫です。
ムハンマド(イスラーム)は、ハガルの子イシュマエルの子孫です。
⑷ サラとハガル
サラは、アブラハムの正妻。
ハガルは、アブラハムの副妻。
⑸ イサクとイシュマエル
イシュマエルは、アブラハムの最初の子。
イサクは、アブラハムの2番目の子。
2 「旧約聖書」の宗教
「旧約聖書」 → 「タナハ」 → 「新約聖書」 → 「クルアーン」
↓ ↓ ↓
猶太教(ユダヤ教) 基督教(キリスト教) イスラーム(イスラム教)
同じ「聖書(旧約聖書)」が、
猶太教(ユダヤ教)・基督教(キリスト教)・イスラーム三教の聖典です。
3 イスラームの「六大預言者」
① アダム ………… 神に創造された最初の人間、「アダムとエバ」のアダム
⤷ ② ノア ………… 「ノアの方舟」のノア、現在の人間の祖
⤷ ③ アブラハム ………… 「信仰の父」のアブラハム
⤷ ④ モーセ ………… 「出エジプト」の指導者、「十戒」のモーセ
⤷ ⑤ イエス ………… 「基督教(キリスト教)」
⤷ ⑥ ムハンマド ………… 「イスラーム(イスラム教)」
4 「啓典の民」
㋑ イスラームでは、
㋺ 猶太教(ユダヤ教)・基督教(キリスト教)・イスラームの3つの宗教は
㋩ 神の啓示である「旧約聖書」を共通にしていることから、
㋥ この3つの宗教の信者を「啓典の民」と呼んでいます。
・
Ⅱ 日本人とイスラーム
1 誤ったイスラーム理解
① 「日本人の無宗教」「宗教の誤解」が根底にあります。
② メディアによる誤った報道が影響しています。
③ 米国を経由して、偏向された知識として伝えられています。
2 日本人とイスラーム
① 1917年ロシア革命により、
ロシア領内トルコ人の国外退避が求められた時のことです。
② トルコ人らは、
満州帝国を経て、
日本に避難し、
東京に在住しました。
③ 1938年、
日本政府の援助を受け、
東京にモスク(東京ジャーミー)を建立しました。
・
Ⅲ イスラームの基礎知識
1 神の名
⑴ 「アッラー(الله)」とは
㋑ 「アッラー(الله)」とは、
「神」という意味のアラビア語です。
㋺ したがって、
「アッラーという神」「アッラーの神」など
というのは誤りです。
⑵ 聖書の「神」の表現
㋑ 「旧約聖書」(ヘブライ語)では、 「エロヒーム」
㋺ 「新約聖書」(ギリシャ語)では、 「セオス」
㋩ 「ウルガタ」(ラテン語)では、 「デウス」
㋥ 「ルター訳聖書」(独語)では、 「ゴット」
㋭ 「欽定訳聖書」(英語)では、 「ゴッド」
㋬ 「日本の聖書」(日本語)では、 「神」
⑶ 宗教で異なる「同じ神」の表現
㋑ 「ユダヤ教」(ヘブライ語)では、 「エロヒーム」
㋺ 「ギリシャ正教」(ギリシャ語)では、 「セオス」
㋩ 「カトリック教会」(ラテン語)では、 「デウス」
㋥ 「ドイツの基督教」(独語)では、 「ゴット」
㋭ 「アメリカの基督教」(英語)では、 「ゴッド」
㋬ 「日本の基督教」(日本語)では、 「神」
㋣ 「イスラーム」(アラビア語)では、 「アッラー」
⑷ 宗教で異なっても、言語が同じなら「同じ神」の表現
㋑ イスラエル(ヘブライ語)では、 「エロヒーム」
㋺ ギリシャ(ギリシャ語)では、 「セオス」
㋩ ドイツ・オーストリア(独語)では、 「ゴット」
㋭ 英語圏(英語)では、 「ゴッド」
㋬ 日本・中国(日本語・中国語)では、 「神」
㋣ アラビア語圏(アラビア語)では、 「アッラー」
2 イスラームの用語
⑴ 「モスク」「ジャーミウ」とは
㋑ 「膝を屈める所」を意味します。
㋺ 「礼拝所」「礼拝の施設」のことです。
⑵ 「ウンマ」とは
㋑ 「信者の共同体」を意味します。
㋺ イスラームには、
他の宗教のような教団や宗派はなく、
聖職者・教職者もいません。
⑶ 「ナビー」とは
㋑ 「預言者」を意味します。
㋺ 「預言者」とは、
神の言葉・神の法を委ねられた者を意味します。
㋩ 未来の出来事を予告する
「予言者」ではありません。
⑷ 「最後の預言者」とは
㋑ 「ムハンマド」を指します。
㋺ ムハンマドは、
c570年にマッカ(メッカ)生まれています。
㋩ ムハンマドには、
12人の妻がいたとされています。
⑸ 「六大預言者」とは
① アダム
② ノア
③ アブラハム
④ モーセ
⑤ イエス
⑥ ムハンマド
⑹ 「五大預言者」とは
① ノア
② アブラハム
③ モーセ
④ イエス
⑤ ムハンマド
3 「六信五行」
⑴ 「六信五行」とは
㋑ 6つを信じ(六信)、
5つを行う(五行)こと。
㋺ 「六信五行」は、
ムスリム(イスラーム信者)の義務です。
⑵ 「六信(イマーン)」とは
① 「神(アッラー)」
ユダヤ教・基督教と共通の「唯一神」を信じること。
② 「天使(マラーイカ)」
ユダヤ教・基督教と共通の「天使」を信じること。
③ 「啓典(クトゥブ)」
「クルアーン」+「旧約聖書」+「新約聖書の一部」を信じること。
④ 「使徒(ルスル)」
「旧約聖書」「新約聖書」の「預言者」などを信じること。
⑤ 「来世(アーヒラ)」
諸宗教に共通の「来世」を信じること。
⑥ 「定命(カダル)」
現世のすべての出来事は神が予め定めたものと信じること。
⑶ 「五行(イバーダート)」とは
① 「信仰告白(シャハーダ)」
㋑ 「信仰告白」とは、
㋑「神のほかに神なし」、
㋺「ムハンマドは神の使徒なり」
と、口に出して告白すること。
㋺ 「信仰告白」をすれば、
信徒(ムスリム)になります。
㋩ 「信仰告白」をしていない者は、
ムスリムではありません。
㋥ 「信仰告白」は、
誰でも、
いつでもすることができます。
② 「礼拝(サラート)」
1日5回の礼拝をすること。
③ 「喜捨(ザカート)」
㋑ 貧者への喜捨をすること。
㋺ 教団や教職者への献金ではありません。
④ 「断食(サウム)」
㋑ 断食月の昼間の飲食などをしないこと。
㋺ 夕食は摂ることができます。
⑤ 「巡礼(ハッジ)」
㋑ 毎年、聖地(マッカ)へ巡礼すること。
㋺ 生涯一度の大目標である人が多数います。
4 「サラート」(礼拝)
⑴ 礼拝の回数
㋑ 「礼拝」は、
各人の置かれた場所で、
各人が行います。
㋺ 「礼拝」は、
毎日、
次の5回行います。
① ファジュル 夜明け前
② ズフル 正午過ぎ
③ アスル 影と本体とが同じ長さとなる時
④ マグリブ 日没後
⑤ イシャー 夜
⑵ 礼拝の方法
㋑ 「礼拝」は、
「サジュッダ(平伏礼)」という方法によります。
㋺ 「サジュッダ」は、
次の7点を地に着けて行う拝礼です。
① 額(ひたい)
②+③ 両掌(両手の手の甲)
④+⑤ 両膝(両足のひざ)
⑥+⑦ 両爪先(両足の足のつま先)
㋩ 額・両手・両膝を地に着ける密教の「五体投地」と同様です。
⑶ 礼拝の方向
㋑ 常に、
「キブラ」に向かって拝礼します。
㋺ 「キブラ」とは、
マッカの「カアバ神殿」の方角を意味します。
㋺ したがって、
世界中、
どこにいる信者も、
常に、
同じ一点に向かって拝礼します。
㋩ モスクなど礼拝所では、
「ミフラーブ(凹壁)」によって、
キブラの方角が示されています。
㋥ ムスリムは、
旅行をする際には、
常に、
キブラの方角を確かめるために、
「方位磁石」が必需品です。
ホテルのテーブルに表示された「キブラ」の方向を示すマーク
・
5 喜捨・断食・巡礼
⑴ 「喜捨(ザカート)」
㋑ ムスリムには、
各自の財産に応じて、
喜捨をすることが義務とされています。
㋺ 喜捨の使途は、
専ら、
貧者・孤児・寡婦の援助のためです。
㋩ イスラームには
教団や教職者はありませんから、
その維持や活動のための経費ではありません。
㋥ その点、
日本の神道神社・仏教寺院・基督教会などとは異なります。
⑵ 「断食(スィヤーム)」
㋑ 「断食」とは、
ラマダン月の一月間、
毎日、
日の出前から日没まで(昼間・日中という意味)、
一切の飲食を断つことです。
㋺ 日没後には、
十分な食事をします。
㋩ 「一日中」「24時間」、
「飲まず喰わず」ではありません。
㋥ ラマダン月の「一月中」「一ヶ月間」、
「飲まず食わず」ではありません。
㋩ ラマダン月には、
唾を飲むのも、
喫煙することも、
性交や自慰射精も禁止されます。
㋥ ただし、
病弱者は免除され、
妊婦・旅行者・兵士は後日に延期されます。
⑶ 「巡礼(ハッジ)」
㋑ 年に一度、
巡礼月の8日〜10日に、
マッカの「カーバ」に巡礼すること。
㋺ 「カーバ」とは、
黒い布で覆われた石造建築物です。
長さ12m・奥行10m・高さ15mの立方体です。
㋩ 「カーバ」とは、
中には何も入っていない、
単なる空間です。
㋥ 世界中からの礼拝が向けられていますが、
「偶像礼拝」ではありません。
6 礼拝施設
⑴ 「マスジド」
㋑ 「礼拝所」「礼拝堂」のことです。
㋺ 「マスジド」を、
仏語では、「モスク」と読み、
英語も、それに倣って、「モスク」といいます。
㋩ トルコ語では、
「マスジド」を「ジャーミー」といいます。
「東京ジャーミー」というのは、その例です。
⑵ 礼拝堂の外部
㋑ 「ミナレット(尖塔)」 礼拝の時間を知らせます。
㋺ 「ミーダーア(水場)」 礼拝前に身体を浄めます。
⑶ 礼拝堂の内部
㋑ 神像・聖画などは一切ありません。
「偶像礼拝の禁止」が守られています。
㋺ 形象化されたアラビア文字は多くあります。
あくまでも「文字」であって、
「画像」はありません。
㋩ 礼拝堂の中は、
広間となっていて、
祭壇はなく、
椅子や机もありません。
㋥ 特徴的なのは、
「ミフラーブ」と
「ミンバル」です。
㋭ 「ミフラーブ」とは、
「キブラ」の方角(拝礼の方角)を示す、
「壁の凹み」のことです。
㋬ 「ミンバル」とは
説教者が語る壇(説教壇)です。
7 「ジハード」
⑴ 「ジハード」とは
㋑ 「ジハード」とは、
「努力する」という意味のアラビア語です。
㋺ 日本では
「聖戦」と報道されますが、
「戦争」という意味ではありません。
⑵ 「ジハードはムスリムの義務」か?
㋑ 「ジハード」は、
「六信五行」にありませんから、
「ムスリムの義務」ではありません。
㋺ 「義務」というなら、
「個人の義務」ではなく、
「ムスリム全体としての義務」という意味です。
⑶ ジハードの決定
㋑ 「ジハード」は、
「法学者の決定」によります。
㋺ イスラームでは、
「神学者」はなく、
「法学者」です。
㋩ ジハードが決定されたことは、
「過去にない」くらいなので、
「現状ではありえない」でしょう。
㋥ ジハードを主張しているのは、
「少数派の過激派」です。
8 女性の服装
⑴ 女性の服装の基本
頭髪・顔・体型を
隠すことが目的です。
⑵ 国別による違い
㋑ 中東では概して厳しいですが、
アジアでは概して緩やかです。
㋺ 中東では黒色・茶色ですが、
アジアではカラフルです。
㋩ 中東では、
外国人旅行者にも適用されます。
⑶ 伝統的な服装の種類
「アバーヤ」 全身を覆う長いワンピース
「ヒジャーブ」 頭から胸まで達するスカーフ
「チャードル」 頭からかぶって全身を覆うコート。
「ニカブ」 目だけ出した顔覆い。
「ブルカ」 目の部分が網状の顔覆い。
「ブルキニ」 水着(「ブルカ」+「ビキニ」=「ブルキニ」)
9 「ハラール」
⑴ 食の制限
㋑ クルアーンによる禁止
クルアーンでは、
① 「飲酒」
② 「豚肉」(豚骨・ラードなどを含む)
を禁じています。
㋺ 国家法による禁止
国家法では、
「正式な手続を経ないで殺された動物の肉」
を禁じています。
⑵ 「ハラール」
㋑ 「酒」や「豚肉そのもの」なら、
容易にそれと分かりますから、
あまり問題ではありません。
㋺ しかし、
「ラード」「豚骨スープ」などとなると、
一見しただけでは分かりません。
㋩ その肉が、
「正式な手続」を経て作られたもの
なのか否かも分かりません。
㋥ そこで、
ムスリムが安心して
「食べて良い食品」を表示する制度が生まれました。
㋭ 「ハラール」とは、
正式な手続で処理された肉など
の食品であることを認証するものです。
⑶ ハラール認証の規則
㋑ 原料の制限
Ⓐ 厳格な制限
ⓐ 「原料」は当然、
ハラール食品のみであること。
ⓑ 「飼料」までもすべて、
ハラール食品のみであること。
Ⓑ 次のような豚肉の派生品でないこと。
ⓐ 豚脂 乳製品・乳飲料・調味料など。
ⓑ 豚皮 ゼラチン・コラーゲン・サプリメントなど。
ⓒ 内蔵 酵素・医薬品など。
㋺ 処理の制限
認証を受けたムスリムが食肉の処理をすること。
㋩ 輸送の制限
Ⓐ 「ハラール食品専用車」によって輸送すること。
Ⓑ ハラール食品以外の食品と混載しないこと。
㋥ 調理の制限
Ⓐ 「ハラール料理専用」の調理場で行うこと。
Ⓑ ハラール料理以外の料理と同一の調理場で行わないこと。
Ⓒ 調理器具などを「アルコール消毒」することも禁止です。
㋭ 販売の制限
Ⓐ 「ハラール食品」は、
他の食品と隔離して、
陳列販売すること。
Ⓑ スーパーマーケットでは、
ハラール食品専用のカートを使用すること。
・
ウズベキスタン・タシュケントのイスラーム神学校・中庭
Ⅳ イスラームの世界
* 数字はすべて概数
1 ムスリムの世界人口
約15億人(世界人口の約20%。5人に1人がムスリム)
2 ムスリムの国別人口
⑴ インドネシア 2億 400万人 アジア
⑵ インド 1億5700万人 アジア
⑶ パキスタン 1億2500万人 アジア
⑷ バングラデシュ 1億 700万人 アジア
⑸ トルコ 6900万人 中東
⑹ イラン 6800万人 中東
⑺ ナイジェリア 6200万人 アフリカ
⑻ エジプト 6100万人 アフリカ
⑼ アルジェリア 3400万人 アフリカ
⑽ モロッコ 2900万人 アフリカ
⑾ エチオピア 2400万人 アフリカ
⑿ サウジアラビア 2100万人 中東
⒀ イエメン 1900万人 中東
⒁ イラク 1800万人 中東
⒂ ロシア 1500万人 ヨーロッパ
⒃ シリア 1500万人 中東
⒄ ウズベキスタン 1500万人 アジア
⒅ マレーシア 1400万人 アジア
⒆ アフガニスタン 1300万人 アジア
⒇ タンザニア 1200万人 アフリカ
㉑ マリ 1200万人 アフリカ
㉒ ニジェール 1000万人 アフリカ
3 ムスリム人口の分布
⑴ 上位4位はアジアの諸国であり、
ヒンドゥ教のインドが3位であり、
共産主義・儒教・道教の中国が9位となっています。
⑵ 1位のインドネシアは、
人口の9割以上がムスリムですが、
国教ではありません。
⑶ インドネシアの隣国マレーシア(18位)は、
ムスリムの人口比が50%以下ですが、
国教とされています。
・
Ⅴ イスラーム法の基礎知識
1 「イスラーム法国家」
⑴ 「イスラーム法国家」とは
「シャリーア」を国法としている国家のこと。
⑵ イスラーム法国家
① 「ペルシャ三国」
イラン、アフガニスタン、パキスタン
② 西アフリカ
モーリタニア
③ アラブ諸国には、
「イスラーム法国家」は存在しません。
⑶ トルコ
㋑ トルコは、
人口の「98%」が
ムスリム(ほぼ100%)ですが、
㋺ イスラームを国家原理とすること
を否定する
「世俗主義」をとっています。
㋩ 大臣や国家公務員などが
宗教的服装や行為をすることを禁止しています。
⑷ 「イスラーム法国家」と「イスラーム国家」
㋑ イスラーム法国家とは、
シャリーアを国法としている国家をいいます。
㋺ イスラーム国家の国家法は、
イスラーム的ではありますが、
シャリーアではありません。
㋩ したがって、
イスラーム国家がイスラーム法国家とは限りません。
誤解が多い点です!
2 「シャリーア」
⑴ 「法」
㋑ 「シャリーア」とは、
アラビア語で「法」という意味です。
㋺ したがって、
「シャリーア法」というのは不適切です。
⑵ 「水場に至る道」
㋑ 元々、
「水場に至る道」という意味です。。
㋺ 転じて、
「法」という意味になりました。
㋩ 「神」から付与された
「神の法」という性格です。
3 法学者と法学派
⑴ 東西の法意識
① 東洋の法意識
㋑ 中国を中心とする東洋の世界では、
皇帝が民を統治する手段が、
「法」と認識されています。
㋺ 「法」の使命は、
民を動かす強制力・威嚇力にあると考えられ、
秘密法典が最高とされています。
㋩ ゆえに、
文字通りに厳格に適用するのが適切と考えられ、
法の解釈を許さない
「文字通り適用」する「形式主義」です。
② 西欧の法意識
㋑ 基督教(キリスト教)社会においては、
「聖書」を「神の法」と捉え、
最高法規と考えられています。
それが、「法の基本形」です。
㋺ したがって、
法は、文字に書かれ、
予め公示されていなければならない、と考えられています。
㋩ 法は神の意思と考えられますから、
適正な法の適用が必要とされます。
㋥ そして、
神の意思にかなう法の適用を図るために、
「法の解釈」が求められます。
③ イスラームの法意識
㋑ 「聖書」を根底に据えた上で、
「クルアーン(コーラン)」を、
「唯一の最高法規」とします。
㋺ 基本的に、
西欧の法意識と共通し、
「法の解釈」を必要とします。
㋩ しかし、
西欧とは異なり、
「国家法」を認めないので、
法の解釈はより重要となります。
⑵ 「法学者」
① 法の解釈
㋑ 文字に書かれた「法」を、
実社会に適用するのには、
法の解釈が必要である、と考えられます。
㋺ その法の解釈を担うのが、
「法学者」です。
② 法学派
㋑ 唯一の最高法は、
「クルアーン」です。
㋺ しかし、
クルアーンだけでは
現実の社会に対応することは困難です。
㋩ そこで、
クルアーン以外に
「何を法源とするか」の違いから
「法学派」が生まれました。。
㋥ 主な「法学派」には、
「シーア派」と「スンニー派」があります。
⑶ 「シーア派」と「スンニー派」
① 「シーア派」
㋑ イスラーム法について
極めて厳格な立場をとります。
㋺ 「法源」を、
「第一法源」と「第二法源」に限るとします。
㋩ 「法学者」を、
アリーとアリーの子孫に限るとします。
㋥ イスラームの1割程度の少数派で、
原理主義・神秘主義的な傾向があります。
㋭ 指導力が強く、
過激派の生まれる素地ともなっています。
㋬ シーア派は、
イラン、シリア、イエメン、アフガニスタンなど
② 「スンニー派」
㋑ 「シーア派」以外の立場で、
圧倒的な多数です。
㋺ アリーの子孫以外の「法学者」を認め、
広い幅があります。
㋩ スンニー派は、
①ハンバル派
②マーリキ派
③シャーフィー派
④ハナフィー派
に分かれています。
㋥ 過激な行動を好まず、
統一と団結を重んじる傾向があります。
㋭ 対決を避け、
合意点を見いだそうとする立場を取ります。
4 法 源
⑴ 第一法源
㋑ 「クルアーン」。
㋺ 預言者(ムハンマド)を介して書かれた
「神の言葉」であり、
「神の法」です。
⑵ 第二法源
㋑ 「スンナ」または「ハディース」。
㋺ 「ハディース」とは、
「預言者の個々の伝承」です。
㋩ そして、
「ハディース」に基づく「預言者の範例」が
「スンナ(道)」です。
⑶ 第三法源
㋑ 「イジュマー」。
㋺ 「イジュマー(決断)」とは、
「法学者の合議の先例集」という意味です。
⑷ 第四法源
㋑ 「キャース」。
㋺ 「キャース(等置)」とは、
「類似のもので評価すること」を意味し、
「類推解釈」という意味です。
㋩ 法学者の合議ができない地域で、
法学者が単独で結論を出すことをいいます。
⑸ 第五法源
㋑ 「イスティヒフサーン」。
㋺ 「イフティフィフサーン」とは、
「あるものを良いと看做すこと」という意味です。
⑹ 第六法源
㋑ 「無記の福利」。
㋺ 「無記の福利」とは、
「立法者が限定していない福利」という意味です。
⑺ 第七法源
㋑ 「慣習」。
⑻ 第八法源
㋑ 「イスティスハーブ」。
㋺ 「イスティーハーブ」とは、
「併存していると考えること」という意味です。
⑼ 第九法源
㋑ 「イスラーム前の法」。
⑽ 第十法源
㋑ 「教友の意見」。
5 同害報復法(キサース)
⑴ 「同害報復法」とは
加害者が被害者に加えたと同じ害を加えて報復することです。
⑵ 「同害報復」とは
㋑ 「傷害罪」であれば、
Ⓐ 加害者が被害者に加えた傷害と
同じ傷害を加害者に加えます。
Ⓑ 身体の一部を切断したのなら、
同じ部位を切断します。
Ⓒ 負傷させたのなら、
同じ負傷を負わせます。
㋺ 「殺人罪」であれば、
Ⓐ 加害者が被害者を殺害したのと
同様の方法で、死刑に処します。
Ⓑ 刺殺なら刺殺、
絞殺なら絞殺、
銃殺なら銃殺、
……です。
Ⓒ 自動車で轢き逃げしたのなら、
自動車で轢き殺します。
⑶ 適用される犯罪
㋑ 故意の殺人と傷害に適用され、
過失の致死・致傷には適用されません。
㋺ 被害者(または遺族)の意思を確認して、
判決で言い渡されます。
⑷ 「ディア(血の代価)」
㋑ 被害者(または遺族)が報復を放棄した場合、
適用されるのが「ディア」です。
㋺ 加害者が被害者に「ディア」の支払いをすることによって、
同害報復を免除するものです。
㋩ 報復の連鎖を終始させる方法として、
推奨されています。
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参考文献
櫻井圀郎「イスラームから考える宗教と国家」『基督神学』2003年15号
櫻井圀郎「イスラームと日本人」共立基督教研究所・2002年
櫻井圀郎「イスラームは危険な宗教か?」『編集会議』2003年3月号
櫻井圀郎「シナゴクとモスクの神礼拝」共立基督教研究所(2010年)
櫻井圀郎「イスラームとイスラーム法」宗教法制研究会・2015年
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・
*** 「ハラール認証」については、「経営支援」のページをご参照ください。 ***
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