宗教法人の課税問題

 宗教法人課税の問題として、3つの場合について簡単に説明します。

Ⅰ 法人税の納税義務が生じる「収益事業」

 1 法人税の非課税と課税

  ⑴ 法人法上、
    ㋑ 全ての内国法人は「法人税」を納める義務がありますが、
    ㋺ 宗教法人を含む、
    ㋩ 公益法人等と人格のない社団等は、非課税とされています。

  ⑵ しかし、
    ㋑ 収益事業を行う場合には、
    ㋺ 収益事業の部分に関しては課税されるとされます。

 2 「収益事業」とは

  ⑴ 「収益事業」とは、
     ①  販売業・製造業など政令で定める事業で、
     ②  事業場を設けて、
     ③  継続的に営まれるものをいいます。

  ⑵ そして、政令で定める事業とは、次の34の事業を言います。
     ① 物品販売業
     ② 不動産販売業
     ③ 金銭貸付業
     ④ 物品貸付業
     ⑤ 不動産貸付業
     ⑥ 製造業
     ⑦ 通信業
     ⑧ 運送業
     ⑨ 倉庫業
     ⑩ 請負業
     ⑪ 印刷業
     ⑫ 出版業
     ⑬ 写真業
     ⑭ 席貸業
     ⑮ 旅館業
     ⑯ 料理店業その他の飲食店業
     ⑰ 周旋業
     ⑱ 代理業
     ⑲ 仲立業
     ⑳ 問屋業
     ㉑ 鉱業
     ㉒ 土石採取業
     ㉓ 浴場業
     ㉔ 理容業
     ㉕ 美容業
     ㉖ 興行業
     ㉗ 遊戯所業
     ㉘ 遊覧所業
     ㉙ 医療保健業
     ㉚ 技芸の教授業、学力の教授業、公開模擬学力試験業
     ㉛ 駐車場業
     ㉜ 信用保証業
     ㉝ 無体財産権の提供等業
     ㉞ 労働者派遣業

 3 宗教法人への課税の例

  ⑴ ペット供養は収益事業(人間の供養のみが宗教活動)
  ⑵ 読経は請負業(施主から委託されて行うから)
  ⑶ 納骨は倉庫業(遺骨の所有者から寄託されて預かるから)
  ⑷ 清涼飲料水の自動販売機は物品販売業
  ⑸ 「1回10円」の電話機は通信業
  ⑹ 段ボール箱で宗教書・数珠・線香などのセルフ販売は物品販売業
  ⑺ ソーラーパネルは製造業(電力会社に売電する場合)
  ⑻ 法事後の宴席は貸席業
  ⑼ 法要の仕出し弁当は飲食店業
  ⑽ 有料の沐浴道場は浴場業
  ⑾ 檀家の子弟を止宿させるのは旅館業
  ⑿ 檀家の子弟を下宿させるのは不動産貸付業 などなど

4 問題点

 ⑴ 「収益」を目的とし、
    「収益事業」として行っている事業に課税することには問題はありません。

 ⑵ しかし、
   ㋑ 「収益」を目的とするのではなく、
   ㋺ 明らかに「宗教活動」を目的として行っている業務を、
   ㋩ 「収益事業」を見做して課税することは疑問です。

 ⑶  また、、
     「株式会社など一般企業が行っている事業と類似の事業は、
     「「収益事業である」とみなし、、
     「一般企業との「課税の公平」を図るためとして、
     「宗教法人に課税することには疑義があります。、
     「元々「営利を目的とする法人」と、
     「「公益を目的とする法人」とを同列に扱うことは問題でしょう。

Ⅱ 固定資産税が賦課される「境内建物・境内地」

 1 「固定資産税」

    地方税法により、
     「固定資産税」とは、
     「土地」と「家屋」と「償却資産」とを「固定資産」と総称し、
     固定資産に賦課される地方税をいいます。

 2 固定資産税の非課税

  ⑴ 地方税法の規定により、
    ㋑ 「宗教法人が、
    ㋺ 専ら、その本来の用に供する、
    ㋩ 宗教法人法3条に規定する境内建物・境内地」は、
    ㋥ 非課税とされています。

  ⑵ 宗教法人法では、
    ㋑ 「境内建物」とは、
    ㋺ ①本殿・本堂・会堂・僧堂・社務所・庫裏・教職舎など、
    ㋩ ②宗教活動の用に供される、
    ㋥ ③宗教活動の目的のために必要な、
    ㋭ ④宗教法人に固有の建物をいいます。

  ⑶ また、
    ㋑ 「境内地」とは、
    ㋺ ①境内建物の敷地・参道・儀式行事に供用地・庭園・山林・
    ㋩  歴史古記に縁故ある地・防災用地のような、
    ㋥ ②宗教活動の目的のために必要な、
    ㋭ ③宗教法人に固有の土地をいいます。

 3 境内建物・境内地への課税

  ⑴ 非課税固定資産への課税
     しかし、非課税のはずの境内建物・境内地に固定資産税が賦課されています。

  ⑵ 固定資産税が賦課されている境内建物・境内地
    ① 収益事業の用に供している部分
    ② 公益事業の用に供している部分
    ③ 宗教活動でも収益事業とされる用に供している部分
    ④ 宗教活動でも公益事業とされる用に供している部分
    ⑤ 宗教活動の用に供しているのでない部分

  ⑶ 課税の例
    ① 清涼飲料水の自動販売機の設置部分
    ② 公衆電話の設置部分
    ③ 販売用図書の陳列部分
    ④ 町内会に使用させている駐車場の部分
    ⑤ 電力会社の電柱の設置部分
    ⑥ 宗教団体子供会の事務所部分
    ⑦ ソーラーパネルの設置部分とソーラーパネル
    ⑧ 防災用品の保管庫
    ⑨ 祭礼備品の保管庫

4 問題点

 ⑴ 宗教法人法上、
   ㋑ 宗教法人は、
   ㋺ ①宗教団体の財産管理など世俗の事務を目的としますが、
   ㋩ ②公益事業を行うことができ、
   ㋥ ③目的に反しない限りで公益事業以外の事業(収益事業)を行う
   ㋭ ことができると定められています。

 ⑵ その意味で、
   ㋑ 「宗教法人の本来の用」とは、
   ㋺ 上記3つの場合が含まれるはずです。

 ⑶ しかし、
   ㋑ 「収益事業」を行っている場合は、
   ㋺ 「本来の用」ではないとして課税し、
   ㋩ 営利を目的とする法人との均衡上の課税である、
   ㋥ と説明されていますが、問題でしょう。

 ⑷ しかも、
   ㋑ 「収益」を目的とするものではなく、
   ㋺ 明らかに「宗教活動」を目的として行っている業務を、
   ㋩ 「収益事業」を見做して課税することには大きな疑問があります。

 ⑸ さらに、、
   ㋑ 「収益」があればともかく、
   ㋺  全く収益外の「公益事業」を「本来の用」ではないとして課税するのは、
   ㋩  万人の目に大きな問題のように感じられます。
   ㋥  地域住民のための防災倉庫・備蓄糧水庫に課税するのは如何なものでしょうか。
   ㋭  営利企業であれば減税にし、
   ㋬  宗教法人であれば課税するというのは、本末転倒のように感じられます。

 ⑹ そもそも、
   ㋑ 課税庁が、
   ㋺ 何が宗教活動であり、何が宗教活動でないかを、
   ㋩ 調査し、審査し、判断するというのは、
   ㋥ 「信教の自由」の観点から大きな問題です。

 

Ⅲ 所得税法の「見なし給与」

 1 「所得税」

  ⑴ 所得税法上、
    ㋑ 「所得税」とは、
    ㋺ 居住者の「所得」に対して課せられる国税で、
    ㋩ 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、
    ㋥ 山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得を対象としています。

  ⑵ そして、、
    ㋑ 「給与所得」とは、
    ㋺ 俸給、給料、賃金、歳費、賞与などの給与に係る所得といいますから、
    ㋩ 雇用関係にある労働者の賃金のことと考えられ、
    ㋥ 労働者に給与を支払う事業主・使用者は、
    ㋭ 給与の支払いの際、
    ㋬ 所得税を源泉徴収しなければならないものと定められています。

 2 「みなし給与」

  ⑴ 所得税法に規定があるわけではありませんが、
    ㋑ 金銭以外の物で受ける経済的な利益で、
    ㋺ 給与に当たるものは「みなし給与」とされ、
    ㋩ それを含んだ給与の総額に対して所得税が課されるものとされています。

  ⑵ 通常、給与という意識がありませんから、
    ㋑ 給与の総額に入れておらず、
    ㋺ 所得税の源泉徴収をしていませんから、
    ㋩ 「みなし給与」とされると、
    ㋥ 本人の給与所得が増えることになり、
    ㋭ 所得税が増えることになり、
    ㋬ 源泉徴収額も増えることになります。

  ⑶ 本来、個人の所得税なので、、
    ㋑ 本人から追加徴収すればよさそうですが、
    ㋺ 源泉徴収をして納税しなければならない宗教法人が、
    ㋩ 「納めるべき税金を納めていない」として、
    ㋥ 追徴・税の加算などがされたりすることがあります。  

 3 宗教職に対する「みなし給与」とされた事例

  ⑴ 支給された法衣・作務衣の代金
  ⑵ 家族で居住している庫裏の賃借料
  ⑶ 家族で益を受けている電気代・電話代・水道代・ガス代
  ⑷ 境内に駐車している住職・家族名義の自家用車の駐車料

4 問題点

 ⑴ ほとんどの宗教法人において、
   ㋑ 「宗教職の「謝儀」「布施」「お礼」などを「給与」とし、
   ㋺ 「給与所得に対する所得税の源泉徴収を行っていますが、
   ㋩ 「そもそも宮司・住職・牧師・司祭など宗教職は「宗教法人に使用される労働者」でありません。

 ⑵ 宗教法人は世俗の事務のみを行う法人であり、
   ㋑ その代表者である代表役員には宗教上の権限はありませんから、
   ㋺ 宗教活動を行うことも、宗教活動を行う宗教職を使用することもできません。
   ㋩ していれば、違法の行為であり、無効の行為です。   

 ⑶ 宗教活動や宗教職が宗教法人の下にあるなら、
    「信教の自由」の観点から、大きな問題です。

 

[参考文献]

1 論文

 櫻井圀郎「沐浴道場への固定資産税の賦課」『宗教法』(宗教法学会)
 櫻井圀郎「ペット供養課税処分取消訴訟判決と宗教判断基準」『宗教法』(宗教法学会)
 櫻井圀郎「資産税課税目的による宗教性判断の是非」『宗教法』(宗教法学会)
 櫻井圀郎「宗教活動と税制〜宗教法人課税の当否をめぐって〜」(税務協会提出)
 櫻井圀郎「宗教の判断基準」『キリストと世界』(東京基督教大学)
 櫻井圀郎「宗教活動非課税と税務当局の宗教介入」『基督神学』

2 雑誌記事

 櫻井圀郎「『ペット供養』課税処分取消訴訟判決〜税務署が『宗教』を判断してよいのか?」『寺門興隆』
 櫻井圀郎「宗教法人税制」『寺門興隆』
 櫻井圀郎「『解釈課税』の違憲性」『京佛』

3 新聞記事

 櫻井圀郎「宗教法人の原則非課税とは何か?」『キリスト新聞』
 櫻井圀郎「宗教とは何か〜税務署に決定権があるのか」『クリスチャン新聞』
 櫻井圀郎「教会への税務調査、必要な法律の知識」『クリスチャン新聞』
 櫻井圀郎「宗教法人の境内地(教会の敷地)なのに 公衆電話と清涼飲料水の自販機の設置部分には課税?」『クリスチャン新聞』
 櫻井圀郎「慈妙院『ペット供養』最高裁判決の問題点」『仏教タイムス』
 櫻井圀郎「「回向院判決」と宗教法人への固定資産税賦課の問題点」『中外日報』