イスラーム(イスラム教)の概要

紋章

【目 次】  [Ⅰ 「旧約聖書」から生まれた宗教]
       [Ⅱ 日本人とイスラーム]
       [Ⅲ イスラームの基礎知識]
       [Ⅳ イスラームの世界]
       [Ⅴ イスラーム法の基礎知識]

【キーワード】  [イスラームの用語]
         [アッラー][六信五行][ジハード][ハラール]
         [女性の服装][同態報復法]

 

◇イスラームの用語

  従来、一般的に使用されてきたイスラームに関する用語が、
     今日では、変更されています。

   宗教の名称: (旧)「イスラム教」「イスラーム教」「回教」「マホメット教」
             ⇒  
(新)「イスラーム」
   信者の呼称: 
(旧)「イスラム教徒」「イスラーム教徒」「回教徒」 
             ⇒  
(新)「ムスリム」」
   教祖の名前: 
(旧)「マホメット」     ⇒  (新)「ムハンマド」
   聖典の名称: 
(旧)「コーラン」   ⇒  (新)「クルアーン」
   聖地の地名: 
(旧)「メッカ」    ⇒  (新)「マッカ」

  

Ⅰ 「旧約聖書」から生まれた宗教

 1 「信仰の父」アブラハムの子孫

    ⑴ アブラハムの系図

      サラ
   
    ‖————— イサク ………… ダビデ(猶太教=ユダヤ教) ………… イエス(基督教=キリスト教)
   
 アブラハム
   
    ‖————— イシュマエル ………… ムハンマド(イスラーム)
   
   ハガル

    ⑵ 共通の父祖

      猶太教・基督教・イスラームの三教は、共に、アブラハム」を「信仰の父」としています。

    ⑶ 異母兄弟

      ダビデ・イエス(猶太教・基督教)は、サラの子イサクの子孫です。
   
   ムハンマド(イスラーム)は、ハガルの子イシュマエルの子孫です。

    ⑷ サラとハガル

      サラは、アブラハムの正妻。
   
   ハガルは、アブラハムの副妻。

    ⑸ イサクとイシュマエル

      イシュマエルは、アブラハムの最初の子。
   
   イサクは、アブラハムの2番目の子。

 2 「旧約聖書」の宗教

    「旧約聖書」 → 「タナハ」   →   「新約聖書」   →   「クルアーン

               ↓             ↓              ↓

                猶太教(ユダヤ教)      基督教(キリスト教)      イスラーム(イスラム教)

    同じ「聖書(旧約聖書)」が、
   
 猶太教(ユダヤ教)・基督教(キリスト教)・イスラーム三教の聖典です。

 3 イスラームの「六大預言者」

   ①  アダム    ………… 神に創造された最初の人間、「アダムとエバ」のアダム

     ⤷ ②  ノア    ………… 「ノアの方舟」のノア、現在の人間の祖

         ⤷ ③  アブラハム  ………… 「信仰の父」のアブラハム

             ⤷ ④  モーセ    ………… 「出エジプト」の指導者、「十戒」のモーセ

                 ⤷ ⑤  イエス     ………… 「基督教(キリスト教)」

                     ⤷ ⑥  ムハンマド   ………… 「イスラーム(イスラム教)」

 4 「啓典の民」

     ㋑ イスラームでは、
     ㋺ 猶太教(ユダヤ教)・基督教(キリスト教)・イスラームの3つの宗教は
     ㋩ 神の啓示である「旧約聖書」を共通にしていることから、
     ㋥ この3つの宗教の信者を「啓典の民」と呼んでいます。

Ⅱ 日本人とイスラーム

  1 誤ったイスラーム理解

     ① 「日本人の無宗教」「宗教の誤解」が根底にあります。
     ② メディアによる誤った報道が影響しています。
     ③ 米国を経由して、偏向された知識として伝えられています。

  2 日本人とイスラーム

     ① 1917年ロシア革命により、
         ロシア領内トルコ人の国外退避が求められた時のことです。
     ② トルコ人らは、
         満州帝国を経て、
         日本に避難し、
         東京に在住しました。
     ③ 1938年、
         日本政府の援助を受け、
         東京にモスク(東京ジャーミー)を建立しました。

Ⅲ イスラームの基礎知識

  1 神の名

     ⑴ 「アッラー(الله)」とは

       ㋑ 「アッラー(الله)」とは、
           「神」という意味のアラビア語です。
       ㋺ したがって、
           「アッラーという神」「アッラーの神」など
           というのは誤りです。

     ⑵ 聖書の「神」の表現

       ㋑ 「旧約聖書」(ヘブライ語)では、 「エロヒーム」
       ㋺ 「新約聖書」(ギリシャ語)では、 「セオス」
       ㋩ 「ウルガタ」(ラテン語)では、  「デウス」
       ㋥ 「ルター訳聖書」(独語)では、  「ゴット」
       ㋭ 「欽定訳聖書」(英語)では、   「ゴッド」
       ㋬ 「日本の聖書」(日本語)では、  「神」

     ⑶ 宗教で異なる「同じ神」の表現

       ㋑ 「ユダヤ教」(ヘブライ語)では、   「エロヒーム」
       ㋺ 「ギリシャ正教」(ギリシャ語)では、 「セオス」
       ㋩ 「カトリック教会」(ラテン語)では、 「デウス」
       ㋥ 「ドイツの基督教」(独語)では、   「ゴット」
       ㋭ 「アメリカの基督教」(英語)では、  「ゴッド」
       ㋬ 「日本の基督教」(日本語)では、   「神」
       ㋣ 「イスラーム」(アラビア語)では、  「アッラー」

     ⑷ 宗教で異なっても、言語が同じなら「同じ神」の表現

       ㋑ イスラエル(ヘブライ語)では、   「エロヒーム」
       ㋺ ギリシャ(ギリシャ語)では、    「セオス」
       ㋩ ドイツ・オーストリア(独語)では、 「ゴット」
       ㋭ 英語圏(英語)では、        「ゴッド」
       ㋬ 日本・中国(日本語・中国語)では、 「神」
       ㋣ アラビア語圏(アラビア語)では、  「アッラー」     

  2 イスラームの用語

     ⑴ 「モスク」「ジャーミウ」とは

       ㋑ 「膝を屈める所」を意味します。
       ㋺ 「礼拝所」「礼拝の施設」のことです。

     ⑵ 「ウンマ」とは

       ㋑ 「信者の共同体」を意味します。
       ㋺ イスラームには、
           他の宗教のような教団や宗派はなく、
           聖職者・教職者もいません。

     ⑶ 「ナビー」とは

       ㋑ 「預言者」を意味します。
       ㋺ 「預言者」とは、
           神の言葉・神の法を委ねられた者を意味します。
       ㋩ 未来の出来事を予告する
           「予言者」ではありません。

     ⑷ 「最後の預言者」とは

       ㋑ 「ムハンマド」を指します。
       ㋺ ムハンマドは、
           c570年にマッカ(メッカ)生まれています。
       ㋩ ムハンマドには、 
           12人の妻がいたとされています。

     ⑸ 「六大預言者」とは 

       ① アダム
       ② ノア
       ③ アブラハム
       ④ モーセ
       ⑤ イエス
       ⑥ ムハンマド

     ⑹ 「五大預言者」とは

       ① ノア
       ② アブラハム
       ③ モーセ
       ④ イエス
       ⑤ ムハンマド

  3 「六信五行」

     ⑴ 「六信五行」とは

       ㋑ 6つを信じ(六信)、
           5つを行う(五行)こと。
       ㋺ 「六信五行」は、
           ムスリム(イスラーム信者)の義務です。

     ⑵ 「六信(イマーン)」とは

       ① 「神(アッラー)
           ユダヤ教・基督教と共通の「唯一神」を信じること。
       ② 「天使(マラーイカ)
           ユダヤ教・基督教と共通の「天使」を信じること。
       ③ 「啓典(クトゥブ)
           「クルアーン」+「旧約聖書」+「新約聖書の一部」を信じること。
       ④ 「使徒(ルスル)
           「旧約聖書」「新約聖書」の「預言者」などを信じること。
       ⑤ 「来世(アーヒラ)
           諸宗教に共通の「来世」を信じること。
       ⑥ 「定命(カダル)
           現世のすべての出来事は神が予め定めたものと信じること。

     ⑶ 「五行(イバーダート)」とは

       ① 「信仰告白(シャハーダ)
         ㋑ 「信仰告白」とは、
             ㋑「神のほかに神なし」、
             ㋺「ムハンマドは神の使徒なり」
             と、口に出して告白すること。
         ㋺ 「信仰告白」をすれば、
             信徒(ムスリム)になります。
         ㋩ 「信仰告白」をしていない者は、
             ムスリムではありません。
         ㋥ 「信仰告白」は、
             誰でも、
             いつでもすることができます。 
       ② 「礼拝(サラート)
           1日5回の礼拝をすること。
       ③ 「喜捨(ザカート)
         ㋑ 貧者への喜捨をすること。
         ㋺ 教団や教職者への献金ではありません。
       ④ 「断食(サウム)
         ㋑ 断食月の昼間の飲食などをしないこと。
         ㋺ 夕食は摂ることができます。
       ⑤ 「巡礼(ハッジ)
         ㋑ 毎年、聖地(マッカ)へ巡礼すること。
         ㋺ 生涯一度の大目標である人が多数います。 

  4 「サラート」(礼拝)

     ⑴ 礼拝の回数

       ㋑ 「礼拝」は、
           各人の置かれた場所で、
           各人が行います。
       ㋺ 「礼拝」は、
           毎日、
           次の5回行います。
            ① ファジュル 夜明け前
            ② ズフル   正午過ぎ
            ③ アスル   影と本体とが同じ長さとなる時
            ④ マグリブ  日没後
            ⑤ イシャー  夜

     ⑵ 礼拝の方法

       ㋑ 「礼拝」は、
           「サジュッダ(平伏礼)」という方法によります。
       ㋺ 「サジュッダ」は、
           次の7点を地に着けて行う拝礼です。
            ①   額(ひたい)
            ②+③ 両掌(両手の手の甲)
            ④+⑤ 両膝(両足のひざ)
            ⑥+⑦ 両爪先(両足の足のつま先)
       ㋩ 額・両手・両膝を地に着ける密教の「五体投地」と同様です。

     ⑶ 礼拝の方向

       ㋑ 常に、
           「キブラ」に向かって拝礼します。
       ㋺ 「キブラ」とは、
           マッカの「カアバ神殿」の方角を意味します。
       ㋺ したがって、
           世界中、
           どこにいる信者も、
           常に、
           同じ一点に向かって拝礼します。
       ㋩ モスクなど礼拝所では、
           「ミフラーブ(凹壁)」によって、
           キブラの方角が示されています。
       ㋥ ムスリムは、
           旅行をする際には、
           常に、
           キブラの方角を確かめるために、
           「方位磁石」が必需品です。      

  5 喜捨・断食・巡礼

     ⑴ 「喜捨(ザカート)」

       ㋑ ムスリムには、
           各自の財産に応じて、
           喜捨をすることが義務とされています。
       ㋺ 喜捨の使途は、
           専ら、
           貧者・孤児・寡婦の援助のためです。
       ㋩ イスラームには
           教団や教職者はありませんから、
           その維持や活動のための経費ではありません。
       ㋥ その点、
           日本の神道神社・仏教寺院・基督教会などとは異なります。

     ⑵ 「断食(スィヤーム)」

       ㋑ 「断食」とは、
           ラマダン月の一月間、
           毎日、
           日の出前から日没まで(昼間・日中という意味)、
           一切の飲食を断つことです。
       ㋺ 日没後には、
           十分な食事をします。
       ㋩ 「一日中」「24時間」、
           「飲まず喰わず」ではありません。
       ㋥ ラマダン月の「一月中」「一ヶ月間」、
           「飲まず食わず」ではありません。 
       ㋩ ラマダン月には、
           唾を飲むのも、
           喫煙することも、
           性交や自慰射精も禁止されます。
       ㋥ ただし、
           病弱者は免除され、
           妊婦・旅行者・兵士は後日に延期されます。

     ⑶ 「巡礼(ハッジ)」

       ㋑ 年に一度、
           巡礼月の8日〜10日に、
           マッカの「カーバ」に巡礼すること。
       ㋺ 「カーバ」とは、
           黒い布で覆われた石造建築物です。
           長さ12m・奥行10m・高さ15mの立方体です。
       ㋩ 「カーバ」とは、
           中には何も入っていない、
           単なる空間です。
       ㋥ 世界中からの礼拝が向けられていますが、
           「偶像礼拝」ではありません。

  6 礼拝施設

     ⑴ 「マスジド」

       ㋑ 「礼拝所」「礼拝堂」のことです。
       ㋺ 「マスジド」を、
           仏語では、「モスク」と読み、
           英語も、それに倣って、「モスク」といいます。
       ㋩ トルコ語では、
           「マスジド」を「ジャーミー」といいます。
           「東京ジャーミー」というのは、その例です。

     ⑵ 礼拝堂の外部

       ㋑ 「ミナレット(尖塔)」  礼拝の時間を知らせます。
       ㋺ 「ミーダーア(水場)」  礼拝前に身体を浄めます。

     ⑶ 礼拝堂の内部

       ㋑ 神像・聖画などは一切ありません。
           「偶像礼拝の禁止」が守られています。
       ㋺ 形象化されたアラビア文字は多くあります。
           あくまでも「文字」であって、
           「画像」はありません。
       ㋩ 礼拝堂の中は、
           広間となっていて、
           祭壇はなく、
           椅子や机もありません。
       ㋥ 特徴的なのは、
           「ミフラーブ」と
           「ミンバル」です。
       ㋭ 「ミフラーブ」とは、
           「キブラ」の方角(拝礼の方角)を示す、
           「壁の凹み」のことです。
       ㋬ 「ミンバル」とは
           説教者が語る壇(説教壇)です。     

  7 「ジハード」

     ⑴ 「ジハード」とは

       ㋑ 「ジハード」とは、
           「努力する」という意味のアラビア語です。
       ㋺ 日本では
           「聖戦」と報道されますが、
           「戦争」という意味ではありません。

     ⑵ 「ジハードはムスリムの義務」か?

       ㋑ 「ジハード」は、
           「六信五行」にありませんから、
           「ムスリムの義務」ではありません。
       ㋺ 「義務」というなら、
           「個人の義務」ではなく、
           「ムスリム全体としての義務」という意味です。

     ⑶ ジハードの決定

       ㋑ 「ジハード」は、
           「法学者の決定」によります。
       ㋺ イスラームでは、
           「神学者」はなく、
           「法学者」です。 
       ㋩ ジハードが決定されたことは、
           「過去にない」くらいなので、
           「現状ではありえない」でしょう。
       ㋥ ジハードを主張しているのは、
           「少数派の過激派」です。

  8 女性の服装

     ⑴ 女性の服装の基本

         頭髪体型
           隠すことが目的です。

     ⑵ 国別による違い

       ㋑ 中東では概して厳しいですが、
           アジアでは概して緩やかです。
       ㋺ 中東では黒色・茶色ですが、
           アジアではカラフルです。
       ㋩ 中東では、
           外国人旅行者にも適用されます。

     ⑶ 伝統的な服装の種類

        「アバーヤ」   全身を覆う長いワンピース
        「ヒジャーブ」  頭から胸まで達するスカーフ
        「チャードル」  頭からかぶって全身を覆うコート。
        「ニカブ」    目だけ出した顔覆い。
        「ブルカ」    目の部分が網状の顔覆い。
        「ブルキニ」   水着(「ブルカ」+「ビキニ」=「ブルキニ」)

  9 「ハラール」

     ⑴ 食の制限

       ㋑ クルアーンによる禁止
           クルアーンでは、 
             ① 「飲酒
             ② 「豚肉」(豚骨・ラードなどを含む)
             を禁じています。 
       ㋺ 国家法による禁止
           国家法では、
             「正式な手続を経ないで殺された動物の肉」
             を禁じています。

     ⑵ 「ハラール」

       ㋑ 「酒」や「豚肉そのもの」なら、
           容易にそれと分かりますから、
           あまり問題ではありません。
       ㋺ しかし、
           「ラード」「豚骨スープ」などとなると、
           一見しただけでは分かりません。
       ㋩ その肉が、
           「正式な手続」を経て作られたもの
           なのか否かも分かりません。
       ㋥ そこで、
           ムスリムが安心して
           「食べて良い食品」を表示する制度が生まれました。
       ㋭ 「ハラール」とは、
           正式な手続で処理された肉など
           の食品であることを認証するものです。

     ⑶ ハラール認証の規則

       ㋑ 原料の制限
         Ⓐ 厳格な制限
           ⓐ 「原料」は当然、
               ハラール食品のみであること。
           ⓑ 「飼料」までもすべて、
               ハラール食品のみであること。
         Ⓑ 次のような豚肉の派生品でないこと。
           ⓐ 豚脂  乳製品・乳飲料・調味料など。
           ⓑ 豚皮  ゼラチン・コラーゲン・サプリメントなど。
           ⓒ 内蔵  酵素・医薬品など。
       ㋺ 処理の制限
           認証を受けたムスリムが食肉の処理をすること。
       ㋩ 輸送の制限
         Ⓐ 「ハラール食品専用車」によって輸送すること。
         Ⓑ ハラール食品以外の食品と混載しないこと。
       ㋥ 調理の制限
         Ⓐ 「ハラール料理専用」の調理場で行うこと。
         Ⓑ ハラール料理以外の料理と同一の調理場で行わないこと。
         Ⓒ 調理器具などを「アルコール消毒」することも禁止です。
       ㋭ 販売の制限
         Ⓐ 「ハラール食品」は、
             他の食品と隔離して、
             陳列販売すること。
         Ⓑ スーパーマーケットでは、
             ハラール食品専用のカートを使用すること。

Ⅳ イスラームの世界

                         * 数字はすべて概数

  1 ムスリムの世界人口

       約15億人(世界人口の約20%。5人に1人がムスリム)

  2 ムスリムの国別人口

     ⑴ インドネシア    2億 400万人  アジア
     ⑵ インド       1億5700万人  アジア
     ⑶ パキスタン     1億2500万人  アジア
     ⑷ バングラデシュ   1億 700万人  アジア
     ⑸ トルコ         6900万人  中東
     ⑹ イラン         6800万人  中東
     ⑺ ナイジェリア      6200万人  アフリカ
     ⑻ エジプト        6100万人  アフリカ
     ⑼ アルジェリア      3400万人  アフリカ
     ⑽ モロッコ        2900万人  アフリカ
     ⑾ エチオピア       2400万人  アフリカ
     ⑿ サウジアラビア     2100万人  中東
     ⒀ イエメン        1900万人  中東
     ⒁ イラク         1800万人  中東
     ⒂ ロシア         1500万人  ヨーロッパ
     ⒃ シリア         1500万人  中東
     ⒄ ウズベキスタン     1500万人  アジア
     ⒅ マレーシア       1400万人  アジア
     ⒆ アフガニスタン     1300万人  アジア
     ⒇ タンザニア       1200万人  アフリカ
     ㉑ マリ          1200万人  アフリカ
     ㉒ ニジェール       1000万人  アフリカ

  3 ムスリム人口の分布

      ⑴ 上位4位はアジアの諸国であり、

         ヒンドゥ教のインドが3位であり、
         共産主義・儒教・道教の中国が9位となっています。

     ⑵ 1位のインドネシアは、

         人口の9割以上がムスリムですが、
         国教ではありません。

     ⑶ インドネシアの隣国マレーシア(18位)は、

         ムスリムの人口比が50%以下ですが、
         国教とされています。

Ⅴ イスラーム法の基礎知識

  1 「イスラーム法国家」

     ⑴ 「イスラーム法国家」とは

         「シャリーア」を国法としている国家のこと。

     ⑵ イスラーム法国家

       ① 「ペルシャ三国」
           イラン、アフガニスタン、パキスタン
       ② 西アフリカ
           モーリタニア
       ③ アラブ諸国には、
           「イスラーム法国家」は存在しません。

     ⑶ トルコ

       ㋑ トルコは、
           人口の「98%」が
           ムスリム(ほぼ100%)ですが、
       ㋺ イスラームを国家原理とすること
           を否定する
           「世俗主義」をとっています。
       ㋩ 大臣や国家公務員などが
           宗教的服装や行為をすることを禁止しています。

     ⑷ 「イスラーム法国家」と「イスラーム国家」

       ㋑ イスラーム法国家とは、
           シャリーアを国法としている国家をいいます。
       ㋺ イスラーム国家の国家法は、
           イスラーム的ではありますが、
           シャリーアではありません。
       ㋩ したがって、
           イスラーム国家がイスラーム法国家とは限りません。
           誤解が多い点です!

  2 「シャリーア」

     ⑴ 「法」

       ㋑ 「シャリーア」とは、
           アラビア語で「」という意味です。
       ㋺ したがって、
           「シャリーア法」というのは不適切です。

     ⑵ 「水場に至る道」

       ㋑ 元々、
           「水場に至る道」という意味です。。
       ㋺ 転じて、
           「」という意味になりました。
       ㋩ 「神」から付与された
           「神の法」という性格です。

  3 法学者と法学派

     ⑴ 東西の法意識

       ① 東洋の法意識

         ㋑ 中国を中心とする東洋の世界では、
             皇帝が民を統治する手段が、
             「」と認識されています。
         ㋺ 「法」の使命は、
             民を動かす強制力・威嚇力にあると考えられ、
             秘密法典が最高とされています。
         ㋩ ゆえに、
             文字通りに厳格に適用するのが適切と考えられ、
             法の解釈を許さない
             「文字通り適用」する「形式主義」です。

       ② 西欧の法意識

         ㋑ 基督教(キリスト教)社会においては、
             「聖書」を「神の法」と捉え、
             最高法規と考えられています。
             それが、「法の基本形」です。
         ㋺ したがって、
             法は、文字に書かれ、
             予め公示されていなければならない、と考えられています。
         ㋩ 法は神の意思と考えられますから、
             適正な法の適用が必要とされます。
         ㋥ そして、
             神の意思にかなう法の適用を図るために、
             「法の解釈」が求められます。

       ③ イスラームの法意識

         ㋑ 「聖書」を根底に据えた上で、
             「クルアーン(コーラン)」を、
             「唯一の最高法規」とします。
         ㋺ 基本的に、
             西欧の法意識と共通し、
             「法の解釈」を必要とします。
         ㋩ しかし、
             西欧とは異なり、
             「国家法」を認めないので、
             法の解釈はより重要となります。

     ⑵ 「法学者」

       ① 法の解釈

         ㋑ 文字に書かれた「法」を、
             実社会に適用するのには、
             法の解釈が必要である、と考えられます。
         ㋺ その法の解釈を担うのが、
             「法学者」です。

       ② 法学派

         ㋑ 唯一の最高法は、
             「クルアーン」です。
         ㋺ しかし、
             クルアーンだけでは
             現実の社会に対応することは困難です。
         ㋩ そこで、
             クルアーン以外に
             「何を法源とするか」の違いから
             「法学派」が生まれました。。
         ㋥ 主な「法学派」には、
             「シーア派」と「スンニー派」があります。       

     ⑶ 「シーア派」と「スンニー派」

       ① 「シーア派」

         ㋑ イスラーム法について
             極めて厳格な立場をとります。
         ㋺ 「法源」を、
             「第一法源」と「第二法源」に限るとします。
         ㋩ 「法学者」を、
             アリーとアリーの子孫に限るとします。
         ㋥ イスラームの1割程度の少数派で、
             原理主義・神秘主義的な傾向があります。
         ㋭ 指導力が強く、
             過激派の生まれる素地ともなっています。
         ㋬ シーア派は、
             イラン、シリア、イエメン、アフガニスタンなど

       ② 「スンニー派」

         ㋑ 「シーア派」以外の立場で、
             圧倒的な多数です。
         ㋺ アリーの子孫以外の「法学者」を認め、
             広い幅があります。
         ㋩ スンニー派は、
             ①ハンバル派
             ②マーリキ派
             ③シャーフィー派
             ④ハナフィー派
             に分かれています。
         ㋥ 過激な行動を好まず、
             統一と団結を重んじる傾向があります。
         ㋭ 対決を避け、
             合意点を見いだそうとする立場を取ります。

  4 法 源

     ⑴ 第一法源 

       ㋑ 「クルアーン」。
       ㋺ 預言者(ムハンマド)を介して書かれた
           「神の言葉」であり、
           「神の法」です。

     ⑵ 第二法源 

       ㋑ 「スンナ」または「ハディース」。
       ㋺ 「ハディース」とは、
           「預言者の個々の伝承」です。
       ㋩ そして、
           「ハディース」に基づく「預言者の範例」が
           「スンナ(道)」です。

     ⑶ 第三法源 

       ㋑ 「イジュマー」。
       ㋺ 「イジュマー(決断)」とは、
           「法学者の合議の先例集」という意味です。

     ⑷ 第四法源 

       ㋑ 「キャース」。
       ㋺ 「キャース(等置)」とは、
           「類似のもので評価すること」を意味し、
           「類推解釈」という意味です。
       ㋩ 法学者の合議ができない地域で、
           法学者が単独で結論を出すことをいいます。

     ⑸ 第五法源 

       ㋑ 「イスティヒフサーン」。
       ㋺ 「イフティフィフサーン」とは、
           「あるものを良いと看做すこと」という意味です。

     ⑹ 第六法源 

       ㋑ 「無記の福利」。
       ㋺ 「無記の福利」とは、
           「立法者が限定していない福利」という意味です。

     ⑺ 第七法源

       ㋑ 「慣習」。

     ⑻ 第八法源 

       ㋑ 「イスティスハーブ」。
       ㋺ 「イスティーハーブ」とは、
           「併存していると考えること」という意味です。

     ⑼ 第九法源  

       ㋑ 「イスラーム前の法」。

     ⑽ 第十法源 

       ㋑ 「教友の意見」。

 5 同害報復法(キサース)

    ⑴ 「同害報復法」とは

        加害者が被害者に加えたと同じ害を加えて報復することです。

    ⑵ 「同害報復」とは

      ㋑ 「傷害罪」であれば、
        Ⓐ 加害者が被害者に加えた傷害と
            同じ傷害を加害者に加えます。
        Ⓑ 身体の一部を切断したのなら、
            同じ部位を切断します。
        Ⓒ 負傷させたのなら、
            同じ負傷を負わせます。

      ㋺ 「殺人罪」であれば、
        Ⓐ 加害者が被害者を殺害したのと
            同様の方法で、死刑に処します。
        Ⓑ 刺殺なら刺殺、
            絞殺なら絞殺、
            銃殺なら銃殺、
            ……です。
        Ⓒ 自動車で轢き逃げしたのなら、
            自動車で轢き殺します。

    ⑶ 適用される犯罪

      ㋑ 故意の殺人と傷害に適用され、
          過失の致死・致傷には適用されません。
      ㋺ 被害者(または遺族)の意思を確認して、
          判決で言い渡されます。

    ⑷ 「ディア(血の代価)」

      ㋑ 被害者(または遺族)が報復を放棄した場合、
          適用されるのが「ディア」です。
      ㋺ 加害者が被害者に「ディア」の支払いをすることによって、
          同害報復を免除するものです。
      ㋩ 報復の連鎖を終始させる方法として、
          推奨されています。 

参考文献

  櫻井圀郎「イスラームから考える宗教と国家」『基督神学』2003年15号
  櫻井圀郎「イスラームと日本人」共立基督教研究所・2002年
  櫻井圀郎「イスラームは危険な宗教か?」『編集会議』2003年3月号
  櫻井圀郎「シナゴクとモスクの神礼拝」共立基督教研究所(2010年)
  櫻井圀郎「イスラームとイスラーム法」宗教法制研究会・2015年