(シルクロード・敦煌の鳴沙山と月牙泉)
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このページの目次
Ⅰ 聖俗の分離
1 境内は聖域
2 論理の聖俗
3 聖俗の分離
Ⅱ 法律上の境内
1 法律上の境内
2 「境内建物」
3 「境内地」
4 「境内」とは
Ⅲ 境内の秩序
1 立入の制限
2 行動の制限
3 プライバシーの保護
Ⅳ 境内における危機管理
1 境内における危害防止
2 境内における防犯
3 境内におけるテロ対策
4 境内における防災
5 境内における被災者支援
6 境内における防疫・感染症対策
Ⅴ 境内地・境内建物の取得
1 土地の取得
2 土地の上の権利の取得
3 土地の移転
4 建物の取得
5 建物の上の権利の取得・移転
6 不動産登記
7 国土利用計画法
8 参考文献
Ⅵ 境内地・境内建物の利用
1 コンサート・講演会など
2 飲食サービス
3 宿泊サービス
4 町内会・ボーイスカウト・子ども会など
5 協力団体の使用
Ⅶ 境内地・境内建物の保守管理
Ⅷ 墓地・納骨堂の建設・経営
1 「墓地」とは
2 「墳墓」とは
3 「納骨堂」とは
4 墓地・納骨堂の経営とは
5 参考文献
Ⅸ 文化財
1 「文化財」とは
2 「重要文化財」「国宝」「登録有形文化財」とは……
3 「重要文化財(国宝を含む)」に指定された場合……
4 「登録有形文化財」に登録された場合……
5 重要文化財・国宝・登録有形文化財の問題点
6 参考文献
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Ⅰ 「聖俗の分離」
1 境内は聖域
「境内」とは、
㋑ 「宗教活動の聖地」であり、
㋺ 「宗教団体の聖域」です。
2 論理の聖俗
「境内」とは、
㋑ 「宗教の論理」の支配する領域であり、
㋺ 「世俗の論理」を拒絶する区域です。
3 聖俗の分離
① 「宗教の根本」は「聖俗の分離」にあります。
② その「聖俗の分離」を具体化した領域が「境内」です。
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(ロシア・スズダリにて)
Ⅱ 法律上の「境内」
1 法律上の境内
⑴ 宗教法人法
宗教法人法は、
㋑ 「宗教活動に必要な施設」として、
㋺ 「境内建物」を定義し、
㋩ 境内建物を基礎にして、「境内地」を定義しています(3条)。
⑵ 地方税法
㋑ 地方税法は、
固定資産税を課する「固定資産」として、
① 「土地」
② 「家屋」
③ 「償却資産」
を定めています(341条)
㋺ 地方税法では、
「固定資産税の非課税」として、
① 「境内建物」
② 「境内地」
③ 「墓地」
などを定めています(348条2項)
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2 「境内建物」
⑴ 「境内建物」の定義
「境内建物」とは、「宗教活動のために必要な固有の建物」をいいます。
⑵ 「境内建物」として法定されている例示
① 宗教活動に不可欠な施設
㋑ 礼拝の施設 本殿、拝殿、本堂、会堂 など
㋺ 修行の施設 僧堂、僧院、信者修行所 など
② 宗教団体の運営に必要な施設
㋑ 単位宗教団体 社務所、庫裏、教職舎 など
㋺ 包括宗教団体 宗務庁、教務院、教団事務所 など
⑶ 法定されていない境内建物の例示
① 宗教活動に不可欠な施設
㋑ 礼拝の施設
礼拝堂、教会堂、祈祷院、仏堂、神祠、洗礼堂、山門、楼門、絵馬堂、
鐘楼、鼓楼、鐘塔、祖師堂、経堂、祖師廟、納骨堂
㋺ 修行・教育の施設
坐禅堂、教育館、信者控所、待合所、更衣室、便所、浴室、
図書館、資料館、宝物殿、カウンセリング棟、瞑想棟
㋩ 布教・伝道の施設
案内所、祈祷受付所、神楽殿、茶室、接待所、映像室、ビデオ室、
瞑想指導所、体験室
② 宗教団体の運営に必要な施設
㋑ 事務の施設 寺務所、教会事務所、書院、会議堂
㋺ 職員の施設 宮司舎、牧師館、司祭館、職員詰所
③ 宗教活動や宗教団体の運営に必要な施設
㋑ 宗教活動の関係 宝物庫、法具庫、神輿庫、山車庫
㋺ 宗教団体の関係 警備舎、警備員詰所、車庫、牛馬舎、電源舎、備品倉庫
⑷ 境内建物となる「工作物」
① 建物でない境内建物
「境内建物」には、「建物」ではない「工作物」も含まれます。
② 境内建物となる工作物の例示
㋑ 礼拝の施設
奉献台、鳥居、灯篭、狛犬、手水所、祖師像、記念碑、庭園、噴水、幟柱、旗柱、
門柱、参道施設、十字架、聖像、神像、聖人像、菩薩像、羅漢像
㋺ 修行の施設
滝行施設、水浴施設、霊水源泉、井戸、瞑想洞窟、苦行施設
㋩ その他の施設
案内板、休憩所、ベンチ、階段、橋、塀、集光器、消火栓、電柱、駐車場、車庫
給水施設、排水施設、変電設備、ソーラー発電設備、防犯カメラ
⑸ 境内建物となる現代的工作物
① 現代的な工作物
現代的な工作物も、「宗教活動に必要」であれば、「境内建物」に当たります。
② 境内建物となる現代的工作物の例示
警備・監視・保安施設、変電・配電施設、排水・浄化施設、天体観察施設、
ソーラー発電施設、風力発電施設、音響施設、放送用電波塔、各種空中線、
Wi-Fi施設、電子端末充電施設、EV車充電施設 など
⑹ 境内建物となる附属建物・附属工作物
① 附属建物・工作物
それ自体では「境内建物」とは言えない建物や工作物でも、
「境内建物」に附属して一体となる建物や工作物は「境内建物」となります。
② 境内建物となる附属建物・工作物の例示
㋑ 駐車場
宗教活動用の車両の駐車場
宗教団体・宗教法人の事務用の車両の駐車場
宗教専門職の職務上の車両の駐車場
㋺ 倉庫
祭礼用の神輿・仏像・祭具などの倉庫
宗教活動用の物品の倉庫
災害対策用の備蓄品・糧水・用品の倉庫
㋩ その他
衛士棟、衛士控室、警備室、運転手控室
神馬舎、仏牛舎、牧羊舎
3 「境内地」
⑴ 「境内地」の定義
「境内地」とは、「宗教活動のために必要な固有の土地」をいいます。
⑵ 「境内地」の法定例
① 境内建物の敷地
㋑ 「境内建物が存する一画の土地」、つまり「境内建物の敷地」です。
㋺ 「境内建物の敷地だけ」に限定されません。
㋩ 不動産登記簿では別筆になっていても、外形上一体となっている土地も含まれます。
② 立竹木など
㋑ 「境内建物の敷地一画」に定着する「立木竹」です。
㋺ 「境内建物の敷地一画」に定着する「建物・工作物以外のもの」です。
③ 参道
現代では、自動車用通路や駐車場も「参道」の一環でしょう。
④ 儀式行事の土地
㋑ 「宗教上の儀式行事を行うための土地」です。
㋺ 「神饌田」「仏供田」「修道耕牧地」などを含みます。
⑤ 尊厳保持の土地
㋑ 「尊厳・風致を保持するための土地」です。
㋺ 「庭園」「山林」などが該当します。
㋩ 宗教の尊厳を保持するための「山林」は、
Ⓐ そのままで境内地です。
Ⓑ 「堂宇や仏像など宗教施設がなければならない」というのは誤りです。
⑥ 縁故のある地
㋑ 「歴史や古記などにより密接な縁故がある土地」です。
㋺ 例えば、
Ⓐ 主祭神の活躍した土地
Ⓑ 開祖が光明を得た土地
Ⓒ 神言・霊言の降った土地
⑦ 防災の土地
㋑ 境内建物や上記の土地の災害防止のための土地です。
㋺ 境内建物・境内地の防災のための防災林・防災擁壁・防災水路・防災区画なども境内地です。
4 「境内」とは
⑴ 「境内」の定義
① 「境内」とは、「境界の内側」という意味です。
② 「結界」によって、「俗界」から区別された「聖域」をいいます。
⑵ 「世俗の介入」の禁止
① 「境内」は、信仰上、神仏のために、「結界」によって区画された区域です。
② 「境内」は、「世俗の介入」を止める区域です。
⑶ 「神仏への敬意」
① 「境内」は、「神仏への敬意」をもって入ることが求められる区域です。
② 「境内」は、「淫らな立ち入り」を拒む区域です。
⑷ 誤解されている境内
「境内」は、「誰でも自由に利用できる公共の用地」というのは誤った理解です。
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(京都・東寺(教王護国寺)門前の掲示)
Ⅲ 境内の秩序
1 立入の制限
⑴ 「境内」は……
① 信仰に基づいて、神仏に奉献・聖別された「聖域」です。
② 宗教上の理由による「立入制限」「立入禁止」があります。
③ 無制限に開放された施設ではありません。
⑵ 「境内」では……
① 「信仰の有無」は個人の自由ですが、何をしても良い自由ではありません。
② 神仏に対して、「相応の敬意」を払うことが求められます。
③ これに反対する者の入域は、当然に拒否され、禁止されています。
④ 拒否・禁止された者の入域は、「不法侵入」となります。
⑶ 「境内」では……
① 一定の服装・言動・行動の秩序が求められます。
② 「不適切な服装」「淫らな服装」「乱れた服装」での入域は禁止されています。
③ 「裸」「半裸」での入域や、「大きく肌を露出した服装」での入域は禁止されています。
④ 「大声」をあげたり、「歌」を歌ったり、「不適切な言動」などは禁止されます。
⑷ 「境内」は……
① 営業施設や公共施設とは異なります。
② 境内への入域は、もっぱら宗教上の原理に従います。
⑸ 「境内」への不法侵入
① 「神仏の侮辱」「宗教の否定」の目的での入域は「不法侵入」「犯罪」となります。
② 宗教上の目的を逸脱した境内への入域は「不法侵入」「犯罪」となります。
⑹ 「境内」での
① 落書き・傷つけ・枝折り・札貼りなどは「不法行為」「犯罪」です。
② 境内建物や境内地の秩序を乱すことは「不法行為」「犯罪」です。
2 行動の制限
⑴ 「境内」は、
信仰に基づく「聖域」ですから、必然的に、一定の行動の制限があります。
⑵ 「境内」では、
宗教職や信者の信仰や宗教活動の妨げとなる行為は禁止されます。
⑶ 「境内」では、
基本的に静寂が求められ、境内での楽器の演奏・歌唱、大きな声での談笑などは禁止されます。
⑷ 境内は、
信仰者のプライベート空間ですから、撮影・録音・録画・中継などは禁止されます。
⑸ 境内では、
宗教上の理由から、立ち入りの可能な場所が限られています。
3 プライバシーの保護
⑴ 写真撮影の制限・禁止
宗教職・信者・参詣者らのプライバシーの保護のため、
境内においては、写真撮影が厳しく制限され、禁止されています。
⑵ 録音録画の制限・禁止
宗教職・信者・参詣者らのプライバシーの保護のため、
境内においては、録音録画が厳しく制限され、禁止されています。
⑶ 個人情報の保護
来参者カードや祈祷申込書などに記載の個人情報は、
その目的のためのみに使用され、他に流用されません。
⑷ 生活空間の保護
① 境内には、宗教職・職員・信者などの生活空間もあります。
② これらの区域への立入りや撮影などは禁止されています。
⑸ 来参者の保護
① 境内の防犯カメラは、境内の秩序の維持と事故・犯罪の防止のためです。
② 防犯カメラの映像は、厳重に保管されています。
③ 事故や犯罪などの場合以外に、その映像が利用されることはありません。
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(マカオ・主教座聖堂の前庭)
Ⅳ 境内における危機管理
1 境内における危害防止
⑴ 境内においては、信者・参詣者・来参者などの安全を図る必要があります。
⑵ 境内建物・境内地の不備・欠陥・故障などからの負傷
2 境内における防犯
⑴
⑵
⑶
3 境内におけるテロ対策
⑴ 多くの人々が集まる宗教施設は、テロのソフトターゲットになりやすい
⑴
⑵
⑶
4 境内における防災
⑴
⑵
⑶
5 境内における被災者支援
⑴
⑵
⑶
6 境内における防疫・感染症対策
⑴
⑵
⑶
・
Ⅴ 境内地・境内建物の取得
1 土地の取得(売買、交換、寄付、贈与、時効)
⑴
⑵
⑶
2 土地の上の権利の取得(地上権、地役権、賃借権)
⑴
⑵
⑶
3 土地の移転(譲渡、寄付、贈与)
⑴
⑵
⑶
4 建物の取得(売買、交換、寄付、贈与、新築)
⑴
⑵
⑶
5 建物の上の権利の取得・移転(賃借権)
⑴
⑵
⑶
6 不動産登記
⑴
⑵
⑶
7 国土利用計画法
⑴ 一定の土地取引については、国土利用計画法による「届出」が必要です。
⑵ 届出の必要となる「土地」は、① 市街化区域の2,000㎡以上の土地、② 都市計画区域内の5,000㎡以上の土地、③ その他の区域の10,000㎡以上の土地です。
⑶ 届出の必要となる「取引」とは、売買、交換、寄付、贈与、共有持分の譲渡、事業譲渡・営業譲渡、譲渡担保、地上権設定、賃借権設定、信託など、土地の移転を伴う取引をいいます。
8 参考文献
櫻井圀郎「境内地と時効取得」
櫻井圀郎「
櫻井圀郎「
櫻井圀郎「
櫻井圀郎「
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Ⅵ 境内地・境内建物の利用
1 コンサート・講演会など
⑴ 当然の宗教活動(1)
① 「儀式行事」「儀式行事の一環」として、
コンサートや講演会などを行うことは、「当然の宗教活動」です。
② 「布教伝道」の目的で、
コンサートや講演会などを行うことも、「当然の宗教活動」です。
③ 信者の「教化育成」の目的で、またはそれに関連して、
コンサートや講演会などを行うことも、「当然の宗教活動」です。
⑵ 当然の宗教活動(2)
① 教派・宗派・教団など「所属の宗教団体」の行事として、
コンサートや講演会・会議などを行うことも、「当然の宗教活動」です。
② 宗教の連盟・協議会・会議・連合会など「所属の連合団体」の行事として、
コンサートや講演会・会議などを行うことも、「当然の宗教活動」です。
③ 宗教の連盟・協議会・会議・連合会など「所属の連合団体」の行事のために、
境内の施設を利用させることも、「当然の宗教活動」です。
⑶ 宗教活動の一環
① 慈善活動団体・公益活動団体・支援活動団体など「所属の社会的団体」の行事として、
コンサートや講演会・会議などを行うこと、そのために境内の施設を利用させることは、
「宗教活動の一環」であり、広い意味で宗教活動でしょう。
② 宗旨や目的に反しない「他の宗教団体」などからの要請により、
コンサートや講演会・会議などのために境内の施設を利用させることは、
「宗教間協力」として、広い意味で宗教活動に当たるでしょう。
⑷ 宗教活動の付随的業務
① 国や地方公共団体の機関などからの要請により、
宗旨や目的に反しない協力として、
コンサートや講演会・会議などのために境内の施設を利用させることは、
「宗教活動」とは言えません。
② しかし、
「宗教団体の社会的責任」として求められることであれば、
宗教団体として宗教活動を有利に展開し、宗教活動を継続するためにも必要なことであり、
「宗教活動の付随的業務」と言えるでしょう。
⑸ 「宗教活動」とは言えない
① 宗教的な目的ではなく、
市民団体・消費者団体・公共機関・公益団体・同好会・青少年団体・町内会・営利会社などの要請により、
コンサートや講演会・会議などのために境内の施設を利用させることは、
「宗教活動」とは言えないでしょう。
② この場合、一般的に、
無償なら「公益的な業務」となり、
有償なら「収益的な業務」となります。
⑹ 「公益事業」「収益事業」
① この場合、
継続的にまたは定期的に行われるなら、それぞれ、「公益事業」「収益事業」となります。
② 「公益事業」「収益事業」に当たるなら、
㋑ 規則所定の手続きにより、宗教法人の「規則の変更」をして、
㋺ (都道府県・文化庁において)「所轄庁の認証」を受け、
㋩ (法務局において)「変更登記」をし、
㋥ 所轄庁に「登記完了届」をしなければなりません。
③ 「収益事業」に当たるなら、
㋑ 特別の「会計区分」をし、
㋺ 「法人税」の確定申告をしなければなりません。
⑺ 固定資産税の賦課
① 境内の全部または一部を「収益事業」に供する場合は、
「固定資産税」「都市計画税」が賦課されます。
② 境内の全部または一部を「公益事業」に供する場合でも、
「固定資産税」「都市計画税」が賦課されることになります。
(「固定資産税」のページをご参照ください)。
2 飲食サービス
⑴ 「当然の宗教活動」
㋑ 「宗教活動」「宗教活動の一環」として
行われる「飲食の提供」は、「当然の宗教活動」です。
㋺ 信者・参詣者・参拝者・求道者・訪問者など(信者ら)のための
「宗教活動上の必要」から行われる飲食の提供も、当然に「宗教活動の内容」です。
㋩ 信者らの便宜のために行われる飲食の提供も、
「宗教活動を円滑」に行い、
「宗教活動を充実」して行い、
信者らの「参加を促進」するために必要なものであれば、当然に「宗教活動の内容」でしょう。
⑵ 有償による飲食の提供
㋑ 多くの宗教団体においては、
あ これらの飲食が、受益者負担の原則に基づいて、有償(実費)で提供されています。
い 有償であることによって宗教活動であることが否定されるものではありません。
㋺ 境内に設置された「清涼飲料水の自動販売機」も、
信者らの喉の渇きを潤し、熱中症を防止するなど、
宗教活動に必要な信者らの健康を保つためのものであるなら、「宗教活動の一環」です。
⑶ 「収益施設」
㋑ 宗教的な目的はなく、
もっぱら「飲食だけの目的」のために、
境内に設置された有償の飲食の提供施設や自動販売機なら、「収益施設」なります。
㋺ 宗教的な目的はなく、
もっぱら信者でない者に利用させるために、
境内に設置された有償の飲食の提供施設や自動販売機なら、「収益施設」なるでしょう。
㋩ 宗教的な目的はなく、
境内から外に向けて設置された有償の飲食の提供施設や自動販売機なら、「収益施設」なります。
⑷ 「収益事業」
㋑ 「収益施設」を、
継続的に設置・運営するなら、「収益事業」に当たります。
㋺ 「収益事業」に当たる場合、
あらかじめ宗教法人の「規則変更」の手続きを経て、
「所轄庁の認証」を受け、
「変更登記」をし、所轄庁に「登記完了届」をしなければなりません。
㋩ 「収益事業」に当たる場合、
特別の「会計区分」をし、「法人税」の申告をしなければなりません。
⑸ 固定資産税の賦課
境内の全部または一部を「収益事業」に供する場合は、
「固定資産税」が課されることになります(「固定資産税」のページを参照)。
3 宿泊サービス
⑴ 「当然の宗教活動」
㋑ 信者・求道者・出家者・聖職者など(信者ら)のための
「修行」「研修」「修養」「体験」などとして、
またはその一環として行われる宿泊の提供は、「当然の宗教活動」です。
㋺ 長時間に及び、数日に亘る、
「徹夜祈祷」「連続勤行」「断食」「大祭」「籠り」などに、
参加する信者らや参拝者・訪問者など(参拝者ら)のための、
「宗教活動上の必要」から行われる宿泊の提供も、当然に「宗教活動の内容」です。
㋩ 日帰りの不可能または困難な信者らや参拝者らのための、
「宗教活動に参加するための必要」から行われる宿泊の提供も、当然に「宗教活動の内容」です。
㋥ 信者らや参拝者らの個人的な便宜のために行われる宿泊の提供も、
「宗教活動を円滑」に行い、
「宗教活動を充実」して行い、
信者らの「参加を促進」するために必要なものであれば、当然に「宗教活動の内容」でしょう。
⑵ 「有償の宿泊施設」
㋑ 多くの宗教団体においては、
これらの宿泊が、
受益者負担の原則に基づいて、有償(低廉)で提供されています。
㋺ 宿泊施設が有償であることによって、
「宗教活動」であることが否定されるものではありません。
⑶ 「収益事業」
㋑ 宗教的な目的はなく、
もっぱら「宿泊だけの目的」のために、
信者らや参拝者らでない者に、有償で宿泊を提供させるなら、「収益事業」なります。
㋺ 「収益事業」に当たる場合、
あらかじめ宗教法人の「規則変更」の手続きを経て、
「所轄庁の認証」を受け、
「変更登記」をし、所轄庁に「登記完了届」をしなければなりません。
㋩ 「収益事業」に当たる場合、
特別の「会計区分」をし、「法人税」の申告をしなければなりません。
㋥ 境内の全部または一部を「収益事業」に供する場合は、
「固定資産税」が課されることになります(「固定資産税」のページを参照)。
4 町内会・ボーイスカウト・子ども会など
⑴ 町内会
㋑ 町内会(自治会・部落会)は、宗教上の団体ではなく、
町内会との関係も宗教上の関係ではありません。
㋺ しかし、地域に所在し、
地域社会の中で宗教活動を展開する宗教団体としては、無碍にできません。
㋩ 町内会の会議や行事のために境内の一部を無償で利用させることは、
地域社会の中で宗教団体が認められ、宗教活動が許され、
宗教団体の存在の意義を現すために必要なことでしょう。
㋥ その限りにおいて、
宗教団体の存続を維持し、宗教活動を展開するための必要な行為であり、
「宗教活動の付随的な業務」と言えるでしょう。
⑵ ボーイスカウト
㋑ 「ボーイスカウト」「ガールスカウト」は、
そもそも宗教活動の一環として生まれたものです。
㋺ そのため、神社・寺院・教会には、、
ボーイスカウト・ガールスカウトを組織し、指導しているところが少なくありません。
当然、「宗教活動の一つ」と認められます。
㋩ 境内に、
ボーイスカウト・ガールスカウトの分団が組織され、
その事務所や倉庫が置かれることになります。
宗教団体とは別の組織ではなく、宗教活動の一環として展開している組織とみるべきでしょう。
⑶ 子ども会
㋑ 宗教団体の子供会(婦人会・青少年会・学生会・壮年会・老人会など)もまた同様です。
㋺ 宗教団体の直接の指導下にある団体もあれば、
宗教団体の指導を受けながらも自主的に組織運営されている団体もあります。
㋩ いずれの形態であっても、
その目的は、宗教的理念に基づき、宗教活動を展開し、健全な人生を導くなどにあり、
あくまでも「宗教活動の一環」です。
5 協力団体の使用
・
・
Ⅶ 境内地・境内建物の保守管理
⑴
⑵
⑶
⑷
⑸
・
・
(中国・少林寺の塔林)
(マカオの墓地)
Ⅷ 墓地・納骨堂の建設・経営
1 「墓地」とは
⑴ 「墓地」とは
㋑ 法律上の「墓地」
あ 「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」では、
「墳墓を設置するための土地の区域」を「墓地」と呼んでいます。
い 世間で「霊園」「墓苑」などを呼ばれているものが「法律上の墓地」です。
㋺ 世間で言われている「墓地」
あ 世間で「墓地」と言われているものは、
「墓地の中の個々の区画」「墓地の区画」のことです。
い 一般の呼称と法律上の用語との間にズレがあるので、注意が必要です。
⑵ 「立体墓地」とは
㋑ ロッカー式納骨堂型の「立体墓地」と称されるものもありますが……?
㋺ 「墓地」とは、
「墳墓を設置するための土地の区域」をいいますから、
建造物を「墓地」というのには無理があります。
⑶ 「墓地の使用権」
㋑ 「墓地の区画」には、
通常、「永代使用権」と呼ばれる「使用権」が設定されています。
㋺ 一般に「墓地の販売」といわれているのは、
「墓地(区画)の所有権」ではなく、「墓地(区画)の使用権(永代使用権)」です。
2 「墳墓」とは
⑴ 「墳墓」とは、
「墳墓」とは、「死体の埋葬」や「焼骨の埋蔵」をする施設のことをいいます。
⑵ 「死体の埋葬」とは、
死体を土中に葬ることを言います。
いわゆる「土葬」のことです。
⑶ 一般に「お墓」と呼ばれているものが「墳墓」です。
⑷ 「墳墓」は、
㋑ 法律上、「墳墓」は「墓地」でない場所に設置することはできません。
㋺ したがって、自宅の庭や自己所有の田畑・山林などに「墳墓」を設置することはできません。
㋩ 法律制定前の古来からのものは存在しますが、現在ではできません。
⑸ 「墓地」と「墳墓」との関係
㋑ 通常、永代使用権の設定された「墓地(区画)」に自己の「墳墓」を所有することになります。
㋺ したがって、「借地権の設定された土地の上に建築された自己所有の建物」のような関係です。
3 「納骨堂」とは
⑴ 「納骨堂」とは
㋑ 「納骨堂」とは、「他人の委託」を受けて「焼骨の収蔵」をする施設のことです。
㋺ 自宅の居間や座敷に家族の焼骨を安置することは、「納骨堂」には当たりません。
あ 「他人の委託」を受けていないからです。
い 当然、何の許可も必要ありません。
㋩ しかし、
あ 老人福祉施設の集会室に、入居者だった孤独な老人の焼骨を安置することは、
「納骨堂に当たる」とされています。
い 「他人の委託」を受けているとの判断からです。
⑵ 「納骨堂」は……
㋑ 元々は、
「墳墓に埋蔵」するまでの間、焼骨を「一時的に保管」しておく施設でした。
㋺ 今日の「納骨堂」は、
一時的なものは例外的で、殆どが、「永代収蔵施設」です。
㋩ そのため、
あ 「納骨区画の販売(使用権の設定)」が、一般的な、通常の形となっています。
い 「墓地(区画)の販売(使用権の設定)」と同一・同様・類似の形態となっています。
㋥ その場合、
あ 「他人の委託を受けた焼骨の収蔵」をする「納骨堂」に当たるのか疑義があります。
い 「納骨堂」として、「他人の委託を受けて」「他人の焼骨」を収蔵しているのではないからです。
う 「自己の納骨壇」に、「自己の意思で」「自己の焼骨」を収蔵しているだけだからです。
⑶ 今日の「納骨堂」は……
㋑ 通常、「ロッカー型(立体)」ですが、
「平面式の納骨堂」も可能です。
㋺ 「納骨堂」と言い、
あ 「堂宇」を想定していますが、
い 「建物」ではなく、「土地」であっても可能です。
㋩ 「立体墓地」に対して「平面納骨堂」です。
4 墓地・納骨堂の経営とは
⑴ 「墓地・納骨堂の経営」とは
㋑ 実態上、「一定の収益」のある「有料の施設」を経営することをいうはずです。
㋺ 行政実務上も、一定の収益がないと「経営の許可」は与えられません。
㋩ 「無償の経営」は、想定されていないからでしょう。
⑵ 「信者向けの墓地・納骨堂」は
㋑ 宗教団体(宗教法人)が所有する「信者向けの無料の施設」は、
㋺ 「墓地・納骨堂の経営」には当たらないと考えられます。
⑶ 墓埋法の改正で、
㋑ 「都道府県知事の権限」の一部が「市区長」に移されました。
㋺ 墓埋法の趣旨要件を超えた、
「市区条例による規制」が全国的に問題となっています。
㋩ 国単位で考えられるべき墓地埋葬等なのに、
あ 市区条例により、小さな市区に限定された、いびつな墓埋行政となっています。
い 墓地埋葬等は、市区の範囲で自己完結できるものではありません。
う 市区境を超え、都道府県境を超え、国単位で考えられるべきものです。
5 参考文献
櫻井圀郎「葬送法上の諸問題」『キリストと世界』(東京基督教大学)
櫻井圀郎「墓地・埋葬をめぐる法律問題」『自分らしい葬儀』(いのちのことば社)
櫻井圀郎「知っているようで知らぬ墓埋法」『月刊住職』2015年9月号(興山舎)
櫻井圀郎「墓地条例の問題点」『月刊住職」2019年3月号・4月号(興山舎)
櫻井圀郎「納骨と納骨堂」『月刊住職」2016年10月号(興山舎)
櫻井圀郎「納骨契約」『月刊住職」2016年11月号・12月号(興山舎)
櫻井圀郎「全国墓地条例の問題点」(宗教法制研究会)
櫻井圀郎「全国墓地条例の問題点」『宗教法』(宗教法学会)
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(中国)
Ⅸ 文化財
1 「文化財」とは
「文化財」とは、次の⑴〜⑹の総称をいいます。
⑴ 「有形文化財」
㋑ 歴史上・芸術上価値の高い有形の文化的所産。
(建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書など)
㋺ 考古資料・学術上価値の高い歴史資料。
⑵ 「無形文化財」
無形の文化的所産。
(演劇、音楽、工芸技術など)
⑶ 「民俗文化財」
㋑ 風俗習慣・民俗芸能・民族技術。
(衣食住、生業、信仰、年中行事に関するもの)と、
㋺ それらに用いられる物件。
(衣服、器具、家屋など)
⑷ 「記念物」
遺跡。
(貝塚、古墳、都城跡、城跡、旧宅など)
⑸ 「文化的景観」
景観地。
(地域の人々の生活、生業、風土により形成されたもの)
⑹ 「伝統的建造物群」
伝統的建造物群。
(周囲環境と一体化して歴史的風致を形成しているもの)
2 「重要文化財」「国宝」「登録有形文化財」とは ……
⑴ 「重要文化財」とは
㋑ 有形文化財のうち、
㋺ 重要なものとして、文部科学大臣が指定したもの。
⑵ 「国宝」とは
㋑ 重要文化財のうち、
㋺ 世界文化の見地から価値が高いもので、類ない国民の宝として、
㋩ 文部科学大臣が指定したもの。
⑶ 「登録有形文化財」とは
㋑ 有形文化財のうち、
㋺ 重要文化財ではないが、
㋩ 文化財としての価値に鑑み、保存・活用のための措置が必要なものとして、
㋥ 文部科学大臣が指定したもの
3 「重要文化財(国宝を含む)」に指定された場合 ……
⑴ 所有者の自費管理
㋑ 重要文化財は、所有者が、
㋺ 法令の規定と文化庁長官の指示に従って、
㋩ 自費で管理や修理をしなければなりません。
⑵ 補助金の助成
㋑ 重要文化財の管理や修理に費用が多額に及び、
㋺ 所有者の負担にたえない場合には、
㋩ その一部を政府の補助金として交付されることがあります。
⑶ 文化庁長官の関与
㋑ 管理や修理の補助金を交付する条件として指示
㋺ 補助金を受けた管理や修理の指揮監督
㋩ 不適切な管理に対する措置命令・勧告
㋥ 国宝の毀損に対する措置命令・勧告
㋭ 毀損された国宝の修理
㋬ 重要文化財の現状を変更する許可
㋣ 重要文化財の修理の届出の受理
㋠ 輸出の特別許可
㋷ 公開の勧告・命令
㋦ 国立博物館などにおける公開への出品の勧告・命令
㋸ 展覧会などに供覧の許可
㋾ 現状・管理・修理・環境保全状況の報告要求
㋻ 現場への立入り・実地調査
⑷ 権利の制限
㋑ 輸出の禁止(文化の国際交流などは例外)
㋺ 有償譲渡の制限(文化庁長官の買取り優先)
㋩ 公開の義務
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4 「登録有形文化財」に登録された場合 ……
⑴ 所有者は、
法令の規定に従って、自費で管理や修理をしなければなりません。
⑵ 所有者は、
滅失・毀損・亡失・盗難があったときは、10日以内に、文化庁長官に届出なければなりません。
⑶ 所有者は、
所在場所を変更しようとするときは、20日前までに、文化庁長官に届出なければなりません。
⑷ 所有者は、
現状を変更しようとするときは、30日前までに、文化庁長官に届出なければなりません。
⑸ 所有者は、
輸出しようとするときは、30日前までに、文化庁長官に届出なければなりません。
⑹ 所有者は、
登録有形文化財の公開を行うものとされていますが、
所有者の同意を得て、第三者が公開することもできます。
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5 重要文化財・国宝・登録有形文化財の問題点
⑴ 文化か? 宗教か?
⑵ 公開か? 秘儀か?
⑶ 文化財の鑑賞か? 宗教的信仰か?
⑷ 神仏の聖域か? 人間の俗世か?
⑸ 宗教活動か? 公営事業・収益事業か?
⑹ 非課税か? 課税か?
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6 参考文献
櫻井圀郎「寺院と文化財保護法」『月刊住職」2015年8月号(興山舎)
櫻井圀郎「
櫻井圀郎「
櫻井圀郎「