宗教法人

                                            (ウズベキスタンのロシア正教会)

[目 次]

  Ⅰ 「宗教法人」について

    1 「宗教法人」とは
    2 宗教法人の役員
    3 宗教法人の責任
    4 関係者の方々へ
    5 「宗教法人の否定」から「宗教法人の推進」へ
    6 参考文献

  Ⅱ 宗教法人の設立

    1 宗教団体の設立
    2 宗教法人の設立
    3 宗教活動を目的とする他の法人の設立 

  Ⅲ 宗教法人の包括・被包括関係

    1 宗教団体・宗教法人の「包括」とは?
    2 宗教団体の包括・被包括関係
    3 宗教法人の包括・被包括関係
    4 宗教法人の被包括関係・包括関係の設定・廃止
    5 宗教法人の包括・被包括関係の設定・廃止と宗教団体の関係
    6 宗教上人の包括・被包括関係の設定・廃止と宗教職・信者の地位
    7 参考文献

  Ⅳ 宗教法人の公益事業・収益事業

    1 宗教法人の公益事業
    2 宗教法人の収益事業

  Ⅴ 宗教法人の会議

    1 責任役員会
    2 責任役員の決定
    3 文書会議
    4 インターネット会議
    5 遠隔会議・リモートミーティング
    6 参考文献

  Ⅵ 「外部責任役員」のススメ

    1 会社法の「社外取締役」
    2 会社法の「社外監査役」
    3 社外取締役・社外監査役とコーポレート・ガバナンス
    4 社団法人・財団法人の「社外理事」「社外監事」
    5 宗教法人における「外部責任役員」のススメ」 

  Ⅶ 「宗教法人の解散命令」とは?

    1 「宗教法人の解散命令」という問題
    2 公益上の解散命令
    3 利害関係人の解散命令請求

  Ⅶ-2 「宗教法人の売買」って?

    1 「宗教法人の売買」という問題
    2 「株式会社の売買」と「宗教法人の売買」
    3 「宗教法人の売買」とは……

  Ⅷ 宗教法人の税制、非課税の特例

    1 法人税
    2 所得税
    3 固定資産税
    4 参考文献

  Ⅸ 宗教法人か? 一般社団法人か? 一般財団法人か?

    1 「一般社団法人」とは
    2 「一般財団法人」とは
    3 「宗教法人」とは
    4 宗教法人か? 一般社団法人か? 一般財団法人か?    

  Ⅹ 墓地・納骨堂の建設・経営

    1 「墓地」とは
    2 「墳墓」とは
    3 「納骨堂」とは
    4 墓地・納骨堂の経営とは
    5 墓地・納骨堂・焼骨の収蔵施設
    6 参考文献

  Ⅺ 文化財

    1 「文化財」とは
    2 重要文化財・国宝・登録有形文化財
    3 重要文化財に指定されると……
    4 登録有形文化財に登録されると……
    5 重要文化財・国宝・登録有形文化財の問題点 

I 「宗教法人」について

    ***  「宗教法人」に関しては、誤った情報が多数流れています。注意が必要です。

  1 「宗教法人」とは……

    ⑴ 「宗教法人」は、他の法人とは、性格が異なります。

  ㋑ 一般社団法人、一般財団法人、株式会社、学校法人、医療法人、社会福祉法人など、「一般法人」とは異なります。
  ㋺ 一般法人は、事業を行うことが目的ですが、宗教法人は異なります。
  ㋩ 「宗教法人は宗教活動を行う法人」というのは、誤解です。

    ⑵ 「宗教法人」は「宗教活動」を目的とした法人ではありません。

  ㋑ 「宗教活動」とは、「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を強化育成する」ことをいいます。、
  ㋺ 一般法人の場合には、
    Ⓐ 「学校法人」は、「私立学校の設置」が目的であり、学校を設置し、学校教育を行います(私立学校法3条)。
    Ⓑ 「医療法人」は、「病院等の開設」が目的であり、病院等を開設し、診療を行います(医療法39条)。
    Ⓒ 「社会福祉法人」は、「社会福祉事業を行うこと」が目的であり、社会福祉施設を設置し、事業を行います(社会福祉法22条)。
    Ⓓ 「一般社団法人」「一般財団法人」は、定款で定めた目的の事業を行います(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)。
    Ⓓ 「株式会社」「合同会社」は、定款で定めた目的の事業を行います(会社法)。
  ㋩ しかし、「宗教法人」は、宗教活動を行う法人ではなく、宗教活動を行いません。

    ⑶ 「宗教法人の目的」は「宗教団体」の「世俗の事務」

  ㋑ 「宗教法人の目的」は、「宗教団体」の「財務管理」など「世俗の事務」を行うことです。
  ㋺ 「宗教団体」とは、「宗教活動」を行うことを目的とする神社・寺院・教会などや教派・宗派・教団などのことです。
  ㋩ 「宗教法人」は、本体である「宗教団体」の「世俗の事務」を担う法人です。

・ 

  2 宗教法人の役員

    ⑴ 「宗教法人の役員」は「一般法人の役員」とは性格が異なります。

  ㋑ 「宗教法人の役員」は、「代表役員」と「責任役員」です(宗教法人法18条1項)。
    Ⓐ 「代表役員」は、一般社団法人・一般財団法人の「代表理事」や株式会社の「代表取締役」に相当します。
    Ⓑ 「責任役員」は、一般社団法人・一般財団法人の「理事」や株式会社の「取締役」に相当します。
  ㋺ 一般社団法人・一般財団法人の代表理事や株式会社の代表取締役は、法人を代表し、法人の事務を総理します。
  ㋩ 宗教法人の代表役員も、法人を代表し、法人の事務を総理します(宗教法人法18条3項)。
       ただし、あくまでも「世俗の事務」に関するのみで、「宗教上の権限はありません(宗教法人法18条6項)。

    ⑵ 「宗教法人の代表役員」は「宗教団体の宗教主宰者」の下位

  ㋑ 「代表役員」は、財務管理など世俗の事務を行う宗教法人の最高責任者ですが、宗教上の権限はありません。
  ㋺ 宗教活動を行う本体の「宗教団体」は、「宗教主宰者」によって統治されるのが多くの形態です。    
        ただし、宗教の教義教理、宗教団体の歴史伝統などにより、また個々の宗教団体により、区々です。
  ㋩ 「宗教主宰者」とは、
    Ⓐ 「神社の宮司」「寺院の住職」「教会の牧師」「神主」「司祭」「教会長」などや
    Ⓑ 「教派・宗派・教団」などの「教祖」「統理」「総裁」「管長」「議長」などをいいます。    
  ㋥ 「代表役員」は、責任役員の決定により、財務などの世俗の事務を総理します。
    Ⓐ 具体的には、宗教主宰者の命ずる所により、財務などの世俗の事務を行うのみです。
    Ⓑ 多くの宗教法人では、代表役員・責任役員の任免権は、宗教団体や宗教主宰者にあります。

    ⑶ 「代表役員」に「宗教主宰者」「宗教職」「信者」の任免権・監督権はない。

  ㋑ 「宗教主宰者」とは、「宮司」「住職」牧師」など、宗教団体の宗教活動を主宰する者をいいます。    
  ㋺ 「宗教職」とは、
    Ⓐ 「宗教主宰者」のほか、
    Ⓑ 「禰宜」「副住職」「副牧師」「伝道師」「助祭」「宣教師」など、
    Ⓒ 「神職」「僧侶」「教師」など、宗教団体の宗教活動を担う専門職をいいます。    
  ㋩ 「代表役員」には、宗教上の権限はありません。
    Ⓐ 「代表役員」は、「宗教主宰者」に任免され、指揮監督される立場にあります。
    Ⓑ 「代表役員」には、「宗教職」「信者」を任免し、指揮監督する権限はありません。

  3 宗教法人の責任

    ⑴ 「宗教活動による不法行為」は「宗教法人の責任」ではない

  ㋑ 「代表役員」の職務上の不法行為は、「宗教法人の責任」となります(宗教法人法11条1項)。
  ㋺ しかし、宗教活動は代表役員の職務外なので、
        「宗教活動による不法行為」は、宗教法人の責任外となります。
  ㋩ また、代表役員には、宗教主宰者・宗教職・信者の監督権もありませんから、
       「宗教活動による不法行為」についての使用者責任も及びません。

    ⑵ 「宗教活動*による不法行為」は「宗教団体」「宗教主宰者」の責任でもない

  ㋑ 「宗教活動」は、宗教職・信者が各自の信仰に基づいて自主的に行うものです(信教の自由)。
  ㋺ 「宗教活動」は、宗教主宰者・上級宗教職・先輩信者の指揮命令で行うものではありません。
  ㋩ 「宗教団体」の機関決定に基づくとしても、信教の自由が保障される限り、個人の責任です。
  ㋥  「宗教活動」は、「信教の自由」が保障されている下では、是であれ非であれ「個人の責任」です。

    ⑶ 「信教の自由のない宗教団体」は「宗教団体ではない」

  ㋑ 「信教の自由」は、「宗教団体の存立基礎」です。
  ㋺ 「信教の自由」を保障しない「宗教団体」は、「宗教団体」であることの自己否定です。
  ㋩ 「宗教団体でない団体」を「宗教団体」を混同してはなりません。

  4 関係者の方々へ

    ⑴ 宗教団体・宗教法人や宗教職の方へ

  ㋑ 宗教活動を正当に展開し、宗教団体を適正に運営し、宗教法人を適切に運営するために、
  ㋺ 
「信教の自由」を基本原則として、
  ㋩ 宗教専門職による「宗教」に特化した法律事務・法律手続きを旨とする当事務所に、ご相談ください!

    ⑵ 弁護士・司法書士・行政書士・税理士・社会保険労務士など専門職の先生方へ

  ㋑ 「宗教法」は極めて特殊な分野です。
  ㋺ 「宗教」関連の事件事案の処理にあたって、当事務所との連携をご検討ください!
  ㋩ 先生方の事件・事案の処理に、
     状況説明、助言、提言、鑑定、意見書作成などや、
     共同受託、再受託など、さまざまな形でご協力させていだきます。

  5 「宗教法人の否定」から「宗教法人の推進」へ

    ⑴ かつて(40年前)、小職は、宗教法人制度を否定的に捉えていました

  ㋑ 「宗教団体が宗教法人になる」と誤解していたからです。
  ㋺ 「宗教団体が宗教法人になる」なら「宗教法人が宗教団体を支配する」ことになるからです。

    ⑵ そうなら、「法律」が「宗教の教義・教理」を否定することになるからです

  ㋑ 宗教法人の代表者である代表役員が、宗教団体を代表することになります。
  ㋺ 宗教法人の意思決定機関である責任役員が、宗教団体の意思を決定することになります。
  ㋩ 宗教団体の宗教主宰者(宮司・住職・司祭・牧師など)が代表役員に使用されることになります。
  ㋥ 聖なる宗教活動が、世俗の代表役員・責任役員によって、指揮・管理されることになります。

    ⑶ それゆえ、宗教団体が宗教法人制度を導入しないよう勧めていました

    ⑷ 転換点は、「宗教法人法の正しい理解」でした

  ㋑ 宗教法人法は、「聖俗分離の原則」を徹底していることを理解したからです。
  ㋺ 宗教法人制度は、「信教の自由」を守る制度であると理解したからです。
  ㋩ それは、「宗教団体と宗教法人」という宗教法人法独特の構造でした。

    ⑸ したがって、「信教の自由」を害するから「宗教法人を否定」という立場から、
      「信教の自由」を徹底するから「宗教法人を推奨」という立場に変じました

  6 参考文献

 櫻井圀郎「宗教法人法の構造とその問題点」『キリストと世界』(東京基督教大学)
 櫻井圀郎「教団運営の実態と宗教法人法の限界」『キリストと世界』(東京基督教大学)
 櫻井圀郎「宗教法人解散後の宗教活動」『キリストと世界』(東京基督教大学)
 櫻井圀郎「宗教法人法における宗教団体と宗教法人」『宗教法』(宗教法学会)
 櫻井圀郎「宗教団体の実態と宗教法人法の限界」『宗教法』(宗教法学会)
 櫻井圀郎「包括宗教団体の法律実務上の諸問題」『宗教法』(宗教法学会)
 櫻井圀郎『教会と宗教法人の法律』(キリスト新聞社)
 櫻井圀郎「宗教活動による不法行為と宗教法人の責任」『法政論集』(名古屋大学)
 櫻井圀郎「宗教活動に基づく不法行為と宗教法人の責任」『私法』(日本私法学会)
 櫻井圀郎「信教の自由と牧師の教会実践」『キリストと世界』(東京基督教大学)
 櫻井圀郎「宗教法人法制の検証と展開」『二十一世紀民事法学の挑戦』(信山社)

 

  7 宗教団体と宗教法人との関係
    宗教主宰者と代表役員との関係
    宗教者会議と責任役員会との関係

    ⑴ 聖域を司る宗教主宰者と世俗の事務を担う代表役員

     

 

    ⑵ 聖法と俗法/神の法と国家の法律

 

 

    ⑶ 宗教団体の具体例

 
 

    ⑶ インターネット上に公開されている具体例 

   

      ① 創価学会組織図(創価学会HP、www.sokagakkai.jp <img-6-1.png>)

      ② 立正佼成会組織図(立正佼成会HP、kosei-kai.or.jp <group2016.jpg>)

  8 「宗教団体の役員」と「宗教法人の役員」

    ⑴ 「宗教団体の役員」

  ㋑ 宗教団体の役員は、
    Ⓐ 包括宗教団体の場合は、
        概して、宗教活動の経歴を勘案して、教師のうちから選任されることが多い。
    Ⓑ 単位宗教団体の場合は、 
        主管者としての教師のほか、
        宗教の教義に関する知識、信仰や宗教活動の経歴を勘案して、信者から選任されることが多い。

  ㋺ 宗教団体の役員は、
      宗教の教義、教師の任免、信者の教育、宗教活動の指導などを主として担う者です。

    ⑵ 「宗教法人の役員」

  ㋑ 宗教法人の役員は、
      宗教団体の財務や法的な任務を担います。

  ㋺ 宗教法人の役員は、
      宗教団体の役員は、宗教上の事項を主として扱いますが、
      宗教法人の役員は、世俗の事項を主として扱います。

    ⑶ 「宗教団体の役員」と「宗教法人の役員」

  ㋑ 宗教団体の役員宗教法人の役員
      宗教団体の役員として適切な者が、
      必ずしも、宗教法人の役員として適切とは限りません。
      宗教法人の役員になることを躊躇する宗教団体の役員もあります。

  ㋺ 宗教団体宗教法人の役員の分離
      宗教法人の役員は、宗教団体の役員である必要はありません。
      宗教法人の役員は、宗教団体の役員とは別に選任することが合理的です。
      外部の専門職や有識者を宗教法人の役員に選任することも有益です(外部責任役員)。

Ⅱ 宗教法人の設立と変更

  1 宗教団体の設立

  ㋑ 「宗教法人」は、他の法人のように、「ゼロからの設立」をすることができません。
  ㋺ 「宗教団体」の存在を前提とした法人制度です。
  ㋩ したがって、「宗教団体」を設立して、すぐに「宗教法人の設立」をすることはできません。
  ㋥ また、「宗教団体」を設立しても、適正に運営されていないと、「宗教法人の設立」はできません。 
  ㋭ 「宗教団体の設立」「宗教団体の運営」については、「宗教団体」のページをご参照ください。       

・  

  2 宗教法人の設立

     ⑴ 宗教団体における宗教法人設立の手続き

  ㋑      
  ㋺ 

     ⑵ 宗教法人の規則の作成

  ㋑ 宗教法人の設立には、「規則」を作成しなければなりません(宗教法人法)。
  ㋺ 宗教法人の「規則」は、宗教法人の基本約款です。
  ㋩ 宗教法人の「規則」は、一般社団法人・一般財団法人・株式会社などの「定款」に相当します。 

     ⑶ 宗教法人の規則(記載事項)

  ㋑ 目的 
  ㋺ 名称
  ㋩ 事務所の所在地
  ㋥ 包括する宗教団体
  ㋭ 代表役員・責任役員・代務者・仮代表役員・仮責任役員
  ㋬ 議決・諮問・監査などの機関
  ㋣ 公益事業・収益事業・収益の処分方法
  ㋠ 基本財産・宝物など
  ㋷ 予算・決算、会計、財務
  ㋦ 規則の変更
  ㋸ 解散の事由、清算人、残余財産の処分
  ㋾ 公告の方法
  ㋻ 他の宗教団体を制約する事項、他の宗教団体によって制約される事項
  ㋕ 上記に関連する事項 

     ⑷ 所轄庁の認証手続き

  ㋑ 宗教法人の設立には、「規則の認証」を受けることが必要です。
  ㋺ 規則の認証は、所轄庁に申請します。
    Ⓐ 所轄庁は、原則、主たる事務所の所在地の都道府県知事です。 
    Ⓑ 他の都道府県に境内建物を有する宗教法人は、文部科学大臣が所轄庁となります。
    Ⓒ 他の都道府県に境内建物を有する宗教法人を包括する宗教法人も、文部科学大臣が所轄庁です。
    Ⓓ 他の都道府県内にある宗教法人を包括する宗教法人も、文部科学大臣が所轄庁です。
  ㋩ 認証申請の少なくとも1月前に「公告」しなければなりません。
  ㋩ 申請は、次の書類を添えて行います。
    Ⓐ 認証申請書
    Ⓑ 規則2通
    Ⓒ 宗教団体であることを証する書類
    Ⓓ 公告をしたことを証する書類
    Ⓔ 申請人の代表権限を証する書類
    Ⓕ 代表役員・責任役員の就任受諾書

     ⑸ 法務局の設立登記手続き

  ㋑ 所轄庁から「認証書」の交付を受けた日から2週間以内に、法務局で宗教法人設立登記をしなければなりません。
  ㋺ 宗教法人は、「設立の登記」によって成立します。

     ⑹ 所轄庁への登記届

  ㋑ 登記を受けたときは、遅滞なく、所轄庁に届け出なければなりません。
  ㋺ 登記事項証明書(登記簿藤本)を添付しなければなりません。 

  3 宗教活動を目的とする他の法人の設立

     ⑴ 一般社団法人・一般財団法人の設立

㋑ 宗教活動を社団法人・財団法人として展開する……
㋺ 宗教活動の支援や関連事業を社団法人・財団法人として行う……
㋩ 宗教法人の目的の一部を社団法人・財団法人に付託する……
㋥ 宗教職や信者の団体を社団法人・財団法人とする……

     ⑵ 株式会社・合同会社の設立

㋑ 宗教活動を株式会社として展開する……
・  信者が株式を保有することになり、安心して宗教活動に励める
・  奉納金・布施・献金を株式に転化でき、信者間での争いがなくなる
・  信者の貢献度が株主総会での表決権に反映され、公平感が現れる
㋺ 株式会社に、宗教活動の支援や関連事業などを任せる……
㋩ 宗教活動の一部を社会福祉法人・医療法人・学校法人に委ねる……

     ⑶ 社会福祉法人・医療法人・学校法人の設立

㋑ 宗教活動を株式会社として展開する……
・  信者が株式を保有することになり、安心して宗教活動に励める
・  奉納金・布施・献金を株式に転化でき、信者間での争いがなくなる
・  信者の貢献度が株主総会での表決権に反映され、公平感が現れる
㋺ 株式会社に、宗教活動の支援や関連事業などを任せる……
㋩ 宗教活動の一部を社会福祉法人・医療法人・学校法人に委ねる……

 

     ⑶ 一般社団法人・株式会社から宗教法人への組織変更

㋑ 一般社団法人・株式会社から宗教法人への組織変更の可否
・  宗教法人の設立は、他の法人の場合とは、全く異なります。
・  設立の前提として、「宗教団体」の存在が必要です。
㋺ 宗教活動を主たる目的とする一般社団法人・株式会社……
・  Ⓐ これらは「宗教団体」に当たるのでしょうか?
・  Ⓑ 「宗教法人」とは、「宗教団体」の財産管理など「世俗の事務」のための法人であり、「宗教活動」を行う法人ではありません。
・  Ⓒ 法人格を有する一般社団法人・株式会社には、さらに、重ねて、法人格が付与される必要はありません。
㋩ 「宗教法人」の設立は、
・  Ⓐ 「宗教団体」から「宗教法人」への「組織変更」ではありません。
・  Ⓑ 「宗教団体への宗教法人格の付与」です。
㋥ 仮に、一般社団法人・株式会社に宗教法人格が付与されたとしたら、二重の法人格を有することになってしまいます。
・  そんなことは、ありえません。
㋭ 仮に、一般社団法人・株式会社への宗教法人格の付与が可能だとしたら、宗教法人の設立に際して、一般社団法人・株式会社の「解散」が必要になります。
・  すると、基礎となる「宗教団体」が解散してしまい、もはや、宗教法人格が付与される余地はなくなります。
㋬ そもそも、法人の組織変更は、法律の特別の規定がある場合にのみ認められるものです。
㋣ 答えとして、一般社団法人・株式会社から宗教法人への組織変更は認められません。

                                (米国カリフォルニア州「カリフォルニアミッション」の教会)

Ⅲ 宗教法人の包括・被包括関係

  1 宗教団体・宗教法人の「包括」とは?

     ⑴ 誤解されている「包括」

① 包括宗教団体に「包括される」と包括宗教団体に「吸収される」のではないか?
② 被包括関係になる単位宗教団体は、包括宗教団体の「支部」とされることになるのではないか?
③ ①②の点は、宗教法人であっても、同様の疑問があります。
④ このような疑問や誤解は、宗教関係者だけでありません。
⑤ 行政機関(税務官公署、営業関係・労働関係の官公署など)にもあります。

     ⑵ 「包括」の意味

① 「包括」という制度は、民間企業にはありません。そのため、多くの誤解が生まれています。
② 法律上「包括」の規定があるのは、「地方自治法」と「宗教法人法」です。

③ 地方自治法では、次のように定められています。
・  ㋑ 「都道府県は、市町村を包括する」(5条2項)
・  ㋺ 都道府県も、市町村も、独立の法人です(1条の3、2条)
・  ㋩ それぞれ、独立の議会・首長・条例によって運営されています。
・  ㋥ 条例は法律に、市町村条例は都道府県条例に反しえませんが、その枠内では、自由に規定し、自由に運営されます。
・  ㋭ 法律上の規定はありませんが、「国は都道府県を包括する」です。

④ 宗教団体・宗教法人の包括(宗教法人法2条)
・  Ⓐ 宗教団体の包括の例
・    ⓐ 神 社  神社本庁〜神社庁〜支部〜神社
・    ⓑ 仏 教  宗派〜教区〜寺院
・    ⓒ 基督教  教団〜教区〜教会/大会〜中会〜小会
・  Ⓑ 包括関係を取らない単一の宗教団体の例
・    ⓐ 本部〜支部〜教会
・    ⓑ 株式会社の本社〜支社〜営業所と同様です。
・  Ⓒ 包括関係を取るか取らないかは、各宗教団体の方針により、自由に決定できます。
・  Ⓓ 包括関係をとらなかった宗教団体でも、下位組織を独立の宗教団体として(宗教団体の分割)、上位組織を包括宗教団体とすることも可能です。
・  Ⓔ 包括関係をとっていた宗教団体でも、被包括宗教団体を包括宗教団体に集合して(宗教団体の合併)、単一の宗教団体とすることも可能です。
・  Ⓕ 宗教団体の包括・被包括関係は、「国〜都道府県〜市町村」と同様です。

     ⑶ 「包括関係」と「社団組織」

① 「社団組織」
・  ㋑ 業者団体・民間組織の例
・     「全国連合会 〜 都道府県団体 〜 各企業・各団体」
・  ㋺ 下位団体を社員とした社団組織
・     「国 〜 都道府県 〜 市町村」とは異なります。

② 「包括関係」
・  ㋑ 社団形態をとる宗教団体もあります。
・  ㋺ 社団形態をとる必要はありません。
・  ㋩ 下位団体から議員を出しても出さなくても構いません。

  2 宗教団体の包括・被包括関係

     ⑴ 単純包括

① 「一の包括宗教団体」と「複数の被包括宗教団体」からなる組織のことです。
② 例えば、「複数の神社・寺院・教会など」をまとめる「一の教派・宗派・教団など」のことです。
③ 比較的小規模な宗教団体に向いています。

     ⑵ 複層包括

① 「一の高位包括宗教団体」の下に、「複数の中位包括宗教団体」を擁し、それぞれに「複数の被包括単位宗教団体」を有する組織です。
② 「教宗派 〜 教区 〜 単位団体」というような複層の組織です。
③ 3段に留まらず、必要に応じて、さらに多層になることも可能です。
・   「総本部〜地方本部〜都道府県連合〜地区連合〜支部〜単位団体」などです。
④ 国際的な宗教団体では、国内の組織の上に、国際組織を有することも可能です。
・   例えば、「世界総本部 〜 アジア総本部 〜 日本総本部 〜 ……」などです。

     ⑶ 複合包括

① 宗教団体の教義・教理・理念などのよっては、さらに、複雑な組織をとることもあります。
② 例えば、
・  ㋑ 統合総本部の下に、
・     ⓐ聖務、ⓑ教務、ⓒ宗務、ⓓ信徒、ⓔ財務の各「統合本部」を持ち、
・  ㋺ 聖務統合本部は、単位団体が直接、包括されるが、
・  ㋩ 教務・宗務統合本部の下には、広い地域の中間包括団体を有し、
・  ㋥ 財務統合本部には、、狭い地域に細分化された複層の包括団体を有するなどです。
③ 単位宗教団体が、
・  ㋑ 中間包括宗教団体に包括されると共に、
・  ㋺ 上位包括宗教団体にも直接包括される、との形態も可能です。

  3 宗教法人の包括・被包括関係

    ⑴ 法律の規定による包括

① 宗教法人法上(2条)、「単純包括」のみと考えられています。
② 宗教法人の単純包括
・  ㋑ 包括宗教法人  単位宗教法人を包括するのみの宗教法人
・  ㋺ 単位宗教法人  礼拝の施設を有する単位となる宗教法人
③ 法律上の単純包括
・   「包括宗教法人〜単位宗教法人」という組織のみ

    ⑵ 法律上認められない包括関係

① 単純包括以外は、法律上許されないと解されています。
② 法律上許されない包括関係の例
・  ㋑ 包括宗教法人の包括宗教法人
・  ㋺ 単位宗教法人を包括する単位宗教法人
③ したがって、
・  ㋑ 「教区」「都道府県神社庁」など、中間の包括宗教人は認められません。
・  ㋺ やむをえないので、包括宗教法人を「単位宗教法人」として上位包括宗教法人に包括されるとしています。
・  ㋩ 単位宗教法人の傘下で活動を始めた宗教団体の指揮・把握が困難です。包括関係は、上位の包括宗教団体と直接になります。
④ 神社の場合
・  ㋑ 実態関係  神宮〜神社本庁〜神社庁〜支部〜神社
・  ㋺ 法律関係  神社本庁〜神宮・神社庁・神社
・  ㋩ 神宮も末端の神社も同格で、直接神社本庁に被包括
・  ㋥ 包括団体である神社庁も、単位団体として、神社本庁に被包括
⑤ 仏教・基督教・諸宗教の場合
・  ㋑ 寺院は、教区を飛ばして、直接、宗派に被包括となる形
・  ㋺ 教会は、教区を飛ばして、直接、教団に被包括となる形
・  ㋩ 小会が、中会を飛ばして、直接、大会に被包括となる形

  4 宗教法人の被包括関係・包括関係の設定・廃止

    ⑴ 宗教法人の「被包括関係」の設定

① 包括宗教法人との事前の協議に基づき、各々の宗教法人で決議します。
・   形式的ですが、その後、包括宗教法人の承認などを受けます。
② 宗教法人の規則の変更手続きをし、所轄庁による規則変更の認証を受けます。
③ 法務局に宗教法人の変更登記をし、所轄庁に届け出ます。
④ その余の事項は、包括宗教法人の諸規則や包括宗教法人との協定(規程)などに基づきます。

    ⑵ 宗教法人の「被包括関係」の廃止

① 各個の宗教法人で決議し、信者・利害関係人向けに公告し、包括宗教法人に通知します。
② 宗教法人の規則の変更手続きをし、所轄庁による規則変更の認証を受けます。
③ 法務局に宗教法人の変更登記をし、所轄庁に届け出ます。
④ 包括宗教法人の諸規則や包括宗教法人との協定などに影響されません。

    ⑶ 宗教法人の「包括関係」の設定

① 当該被包括宗教法人と事前の協議をしたうえで、包括宗教法人で決議し、被包括宗教法人に通知します。
② 被包括宗教法人に対して規則変更の手続きを履践させ、所轄庁による規則変更の認証を受けさせます。
・   規則に規定がある場合には、規則変更の手続きをし、所轄庁の認証を受けなければなりません。
③ 法務局に変更登記を申請させ、登記後の登記事項証明書の提出を求めます。
・   法律上の規定はありませんが、包括宗教法人としては、②③④のことを被包括宗教法人に実行させる必要があります。
④ 所轄庁に登記完了届を提出させます。
⑤ その余の事項は、包括宗教法人の規則や被包括宗教法人との協定などに基づきます。

    ⑷ 宗教法人の「包括関係」の廃止

① 包括宗教法人からの包括関係の廃止は「ありえない」と考えられます。
・  ㋑ そもそも、被包括団体は、包括団体と一体のものであったからです。
・  ㋺ 基督教プロテスタントでは、個々の教会が合同して教団(包括団体)を組織するという構成をとっているので、ありえます。
・  ㋩ ㋺の場合、教団(包括団体)の決定は、構成教会(被包括団体)の合意という形(総会決議など)になります。
・  ㋥ 基督教の場合、異なった教義に陥る(異端に走る)所属教会が現れることが想定され、除名の規定を置いているからです。
・  ㋭ 包括宗教団体・宗教法人に、被包括宗教団体・宗教法人の「除名」の規定がなく、「廃止」するのは違法と考えられます。
② 包括宗教法人が被包括宗教法人の「包括関係の廃止」ができる場合には、
㋑ 次の点に、特に留意しながら、包括宗教法人の所定の手続きを履践します。
・     Ⓐ 「包括廃止(除名)」となる事実・事由・根拠の調査
・     Ⓑ 被包括宗教法人の意見・弁明の聴取
・     Ⓒ 社団法人における社員の除名と同様に、厳格な審議・決定
・  ㋺ 包括宗教法人で決議し、被包括宗教法人に通知します。
・  ㋩ 被包括宗教法人に対して、規則変更の手続きを履践させ、所轄庁による規則変更の認証を受けさせます。
・  ㋥ 法務局に変更登記を申請させ、登記後の登記事項証明書の提出を求めます。
・  ㋭ 所轄庁に登記完了届を提出させます。
・  ㋬ 包括宗教法人の一方的な通知だけでは、被包括宗教法人の側では、永久に「被包括宗教法人である」と法律上公言し続けることになってしまいかねませんから、十分な協議が必要です。

  5 宗教法人の包括・被包括関係の設定・廃止と宗教団体の関係

① 宗教法人に包括・被包括関係が設定・廃止されても、
・   それだけの理由で、直ちに、宗教団体の地位に変更が生じることはありません。
② 宗教法人の包括・被包括関係の設定には、宗教団体の包括・被包括関係の設定が前提であるのが通例です。
・  ㋑ とはいえ、宗教法人の包括・被包括関係と宗教団体の包括・被包括関係とは聖俗別次元の問題です。
・  ㋺ したがって、宗教団体の包括。被包括と宗教法人の包括・被包括とを異にすることもあります。
・  ㋩ 包括・被包括関係にある宗教団体が、宗教法人としては包括・被包括関係を設定しないことも可能です。
・  ㋥ 包括・被包括関係にない宗教団体が、宗教法人としては包括・被包括関係を設定することも可能です。
③ 宗教法人の包括・被包括関係を廃止しても、
・   直ちに、宗教団体の包括・被包括関係が廃止されるわけではありません。
④ 宗教団体の包括・被包括関係を廃止しても、
・   直ちに、宗教法人の包括・被包括関係が廃止されるわけではありません。

  6 宗教法人の包括・被包括関係の設定・廃止と宗教職・信者の地位

・ 宗教法人に包括・被包括関係が設定・廃止されても、
・   それだけの理由で、直ちに、宗教職や信者の地位に変更が生じることはありません。

  7 参考文献

・ 櫻井圀郎「宗教団体の実態と宗教法人法の限界」『宗教法』(宗教法学会、2011年)
・ 櫻井圀郎「教団運営の実態と宗教法人法の限界」『キリストと世界』(東京基督教大学、2011年)
・ 櫻井圀郎「『教区』運営の諸問題」(日本基督教学会、2011年)
・ 櫻井圀郎「包括宗教法人の法律実務上の諸問題」『宗教法』(宗教法学会、2012年)  
・ 櫻井圀郎「宗教法人における包括関係および被包括関係の意味」『キリストと世界』(東京基督教大学、2021年)  
・   

                                              (北海道・美英の「青い池」)

Ⅳ 宗教法人の公益事業・収益事業

  1  宗教法人の公益事業

① 宗教法人法には「宗教法人は公益事業を行うことができる」と定められていますが、それは、宗教法人の法的能力に関する規定であり、すべての宗教法人が「公益事業を始める」ことができるわけではありません。宗教法人が、新たに公益事業を始めるには、所定の手続きにより、宗教法人の規則を変更して、所轄庁(都道府県知事または文部科学大臣)の認証を受けることが必要です。

② 実際に行なっている(あるいは行おうとしている)事業が、「宗教活動」なのか、「公益事業」なのか、「収益事業」なのかは、十分な検討が必要です。一概に、「対価を得たら収益事業」とは言えませんし、「公益事業は無償に限る」わけでもありません。そもそも「宗教活動」は「公益事業」です。ただし、「宗教活動」は「宗教法人の事業」ではありません。

③ 宗教法人が「公益事業を始める」には慎重でなければなりません。地方税法上、宗教法人の所有する境内建物・境内地には固定資産税が課されないこととされていますが、課税庁では、境内建物・境内地を、収益事業はもちろん、公益事業の用に供すると、「非課税でなくなる(課税される)」と解されているからです。

④ 例えば、「防災用品」の保管や「災害時の非常糧水」の備蓄のために、境内建物を供すると、それが「専ら信者のためなら非課税」であるが、「地域住民や被災者・帰宅困難者のためなら寡勢」となると解されています。一般営利企業であれば、現免税の対象となるのに、公益法人である宗教法人だと課税となるというのです。

⑤ その他、地域住民の福祉のため施設を利用させても、地域老人会・子供会・町内会のために便宜を供しても、その他の社会貢献のために施設を無償で提供しても、「公益事業として課税」となるというわけです。安直に「公益事業」を勧める向きもありますが、慎重な検討が必要でしょう。

  2  宗教法人の収益事業

① 宗教法人は「目的に反しない限度で、公益事業以外の事業(収益事業)を行うことができる」というのが宗教法人法の規定です。もちろん、宗教法人が直ちに何らかの収益事業を開始できるわけではありません。宗教法人が新たに収益事業を行おうとする場合には、所定の手続きにより、宗教法人の規則を変更して、所轄庁の認証を受けなければなりません。

② 誤解されている方も多いのですが、「宗教法人の収益事業」は、「株式会社などの営利事業」とは異なります。「株式会社などの営利事業」は、利益をあげ、利益を配当することが目的ですが、「宗教法人の収益事業」は「宗教法人の財政を補助するため」であり、「宗教活動を進めるため」の財源です。

③ 「対価性があれば収益事業」「有料の事業を行えば収益事業」などと言われていますが、そうではありません。宗教活動でも有料のものもありますし、公益事業にも有償のものもあります。あくまでも、宗教法人の財政を補助するために行う事業が宗教法人の収益事業です。

④ 「宗教法人法上の収益事業」と「法人税法上の収益事業」とは別の概念です。両者を混同すると謝りが生じます。宗教法人法上「収益事業」であっても、法人税法上「収益事業ではない」という事例は多々ありますし、法人税法上「収益事業である」とされても、宗教法人法上は「収益事業ではない」ということもあります。

⑤ 近年は「宗教活動」として行われているものを、法人税法上「収益事業である」として法人税の納税義務があるとされたり、固定資産税が賦課されたりという事例が多発しています。また、「収益事業」と思って行なっていたものでも、実は「公益事業」や「宗教活動」であったこともしばしばあります。

⑥ おかしな事例:
・  信者や参詣者のために、サービスとして、清涼飲料水自動販売機を設置すると、「物品販売業」
・  信者や参拝者のために、宗教書や経典を、セルフ販売にしていると、「物品販売業」
・  電話機の横に「1回10円」と書いた空き缶を置いていると、「通信業」
・  ソーラー発電パネルを設置すると、「発電業」
・  ペットの焼骨の収蔵(納骨)は、「倉庫業」
・  ペット葬儀の読経は、「請負業」
・  結婚式・葬式・法要の後の会席などは、「席貸業」「飲食店業」

Ⅴ 宗教法人の会議

  1 責任役員会

⑴ 大多数の宗教法人では、規則で、責任役員の全員で責任役員会を構成し、宗教法人の意思を決定するものと定めています。
⑵ 責任役員会は、規則の規定により、「過半数」「3分の2以上」などの責任役員の出席によって成立し、出席責任役員の「過半数」「3分の2以上」「4分の3以上」「全員一致」などによって議決されます。
⑶ 責任役員会の議決権は、他の責任役員に委任して行使することはできませんから、所定の責任役員の出席が得られないと会議は成立しません。
⑷ 責任役員会の議決は、出席責任役員によって議決されますから、文書で議案を提示し、文書で表決する文書会議は認められません。
⑸ 一般社団法人・一般財団法人・株式会社の場合、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律や会社法により、文書による提案・議決(みなし決議)が規定されており、定款でそれを規定することによって可能となりますが、宗教法人法にはそのような規定がありません。
⑹ 一般社団法人・一般財団法人・株式会社の場合、出席者全員の顔の表情が見られ、全員の発言が聞け、全員が自由に発言できる(つまり、出席した会議と同様)「テレビ電話会議」を有効とする通達があります。宗教法人も同様と考えますが、不明です。

  2 責任役員の決定

⑴ 宗教法人法は、責任役員会の設置を強制していませんから、置かないことも可能です。
⑵ 責任役員会を置かない場合には、「責任役員による決定」(「過半数」「3分の2以上」などの責任役員の決定)となります。
⑶ その場合、必ずしも一堂に会する必要がありませんから、「文書会議」「持ち回り会議」も可能となります。

  3 文書会議

⑴ 宗教法人の責任役員会においては、責任役員の出席を求めないで、文書で議案を提出し、文書で表決する「文書会議」は、法律上有効な議決とはなりません。
⑵ 責任役員会における責任役員の表決権を他の責任役員に委任することができれば、出席可能な責任役員だけで責任役員会を開催して議事を進めることが可能です。
⑶ しかし、宗教法人法には明文の規定がないものの、責任役員会における責任役員の表決権を他の責任役員に委任することはできないものと考えられます。
⑷ 会社法一般社団法人及び一般財団法人に関する法律には、取締役や理事が出席しないで決議ができる制度(決議の省略)が定められていますが、宗教法人法にはそのような規定はありません。 
⑸ そこで、地震、台風、洪水、感染症、戦争、暴動、テロ、交通障害、移動制限、集会制限などの事由によって、責任役員が出席することができず、責任役員会を開催することができずに、宗教法人の運営が止まってしまう危険もあります。
⑹ そのため、宗教法人においても、非常事態・緊急事態の場合に限り、「文書会議」を導入し、当該事態の解消後、遅滞なく、通常の会議を開いて、承認を得るということは可能ではないかとする考え方もあります。
⑺ もちろん、その場合には、規則を変更して、「文書会議に関する規定」を定め、所轄庁の認証を受ける必要があります。
⑻ しかし、その規則の変更が認証されるとは思われません。
⑼ そこで、唯一の解決策として、当事務所でなしている提案は「責任役員会の廃止」です。
⑽ 規則を変更して、責任役員会を廃止し、「責任役員の決定」とすることで、責任役員が一同に会する必要がなくなり、非常事態・緊急事態の対応が可能となります。 

  4 インターネット会議

⑴ 宗教法人においても、地震、台風、洪水、感染症、戦争、暴動、テロ、交通障害、移動制限、集会制限などに備え、「インターネット会議」の導入を考慮する必要があります。
⑵ 法務省の見解では、議員全員の表情を議員全員が見ることができ、議員全員の発言を議員全員が聞くことができ、議員全員が任意に発言を求めて発言することができ、実際に会議に出席しているのと同様の状況であれば、会議が開催されたとみなしうるとされています。
⑶ 責任役員会にインターネット会議を導入するには、規則を変更して、規則に規定する必要があります。
⑷ 先例がありませんから、所轄庁の認証が簡単にされるとは思えませんが、所轄庁の審査に耐えるだけの規定を考える必要があります。

  5 遠隔会議・リモートミーティング

⑴ 郵送による文書会議では時間がかかりテレビ電話インターネット会議では詳細な議論ができない、また、情報漏れ(リーク)が心配である、とも考えられます。
⑵ もちろん、十分な情報伝達容量のシステムを構築し、セキュリティを確立すれば良いことですが、IT企業や大企業とは異なり、宗教団体や宗教法人の場合、それだけの設備投資をする余裕がないことも多々あることでしょう。
⑶ そこで、直ちに導入可能な、代替システムとして、PC および/またはスマホのテレビ電話アプリを利用し、Eメールおよび/またはファックスを併用する方法も考えられます。
⑷ 基礎は文書会議ですが、音声および顔面表情があり、臨場感もあって、効果的であり、効率的です。
⑸ もちろん、規則上の手当てをしておくことは必要です。

  < 参考文献 >

・  櫻井圀郎「新型コロナウイルス感染症と教会・教団等の会議」『会報』2020年12月(日本キリスト教連合会)
・  櫻井圀郎「寺院でオンライン会議を行う際の問題点」『月刊住職』2021年3月号(興山舎)

                                           (京都・東寺(教王護国寺)の五重塔)

Ⅵ 「外部責任役員」のススメ

  1 会社法の「社外取締役」

・ ⑴ 会社法では「社外取締役」を規定しています。
・ ⑵ 「社外取締役」とは、次の要件に該当する「取締役」をいいます(2条15号)。
・    ① その会社の業務執行取締役などでないこと
・      ㋑ 「業務執行取締役」とは、次の取締役をいいます(363条1項)。
・        Ⓐ 代表取締役
・        Ⓑ 取締役会設置会社の業務を執行する取締役
・      ㋺ 「その会社」には、子会社を含みます。
・      ㋩ 「業務執行取締役など」には、次の者が含まれます。
・        Ⓐ 業務執行取締役
・        Ⓑ 執行役
・        Ⓒ 支配人
・        Ⓓ その他の使用人 
・    ② 就任前10年間、その会社の業務執行取締役などでなかったこと
・    ③ 就任前10年間にその会社の取締役・会計参与・監査役であった場合には
・      その取締役などの就任前10年間、その会社の業務執行取締役などでなかったこと 
・    ④ その会社の経営を支配している者(経営支配者)でないこと 
・    ⑤ 親会社の取締役・執行役・支配人・その他の使用人でないこと 
・    ⑥ 親会社の子会社の業務執行取締役などでないこと 
・    ⑦ その会社の取締役・執行役・支配人・重要な使用人・経営支配者の配偶者・2親等内の親族でないこと
・ ⑶ 一定の場合には、取締役のうち、一定の割合が「社外取締役」でなければなりません(331条、373条、400条)。

  2 会社法の「社外監査役」

・ ⑴ 会社法では「社外監査役」を規定しています。
・ ⑵ 「社外監査役」とは、次の要件に該当する「監査役」をいいます(2条16号)。
・    ① 就任前10年間、その会社の取締役・会計参与・執行役・支配人・その他の使用人でなかったこと
・    ② 就任前10年間、その会社・子会社の監査役であった場合には
・      その監査役の就任前10年間、その会社・子会社の取締役・会計参与・執行役・支配人・その他の使用人でなかったこと
・    ③ その会社の経営支配者でないこと
・    ④ 親会社の取締役・監査役・執行役・支配人・その他の使用人でないこと
・    ⑤ 親会社の子会社の業務執行取締役などでないこと
・    ⑥ その会社の取締役・支配人・重要な使用人・経営支配者の配偶者・2親等内の親族でないこと 

  3 社外取締役・社外監査役とコーポレート・ガバナンス

・ ⑴ 

  4 社団法人・財団法人の「外部役員」「外部委員」

・ ⑴

  5 宗教法人における「外部責任役員」のススメ

・ ⑴ 責任役員の選定
・   ㋑ 従来、内部の関係者(教師および信者)からなされたきました。
・   ㋺ 宗教団体の関係者によって「自ら運営する」という意識のもとでなされてきました。
・   ㋩ 宗教団体の特殊性があり、その宗教法人の運営にも特別の配慮が求められてきました。
・ ⑵ ガバナンスの強化     
・   ㋑ 近年、社会の複雑化の下で、会社や法人における「ガバナンスの強化」が求められています。
・   ㋺ 宗教法人の場合、法律上の諸手続きや会計上の処理に関して、必ずしも十分ではありませんでした。
・   ㋩ 会社・法人に対してと同様、宗教法人に対しても「ガバナンスの強化」が求められています。  
・ ⑶ 新しい展開  
・   ㋑ 社会の高齢化、地域の過疎化、国民の宗教離れなど、新しい社会状況に対応することが求められています。  
・   ㋺ 自然災害による被災、窃盗犯・暴行犯による被害、火災・事故による被害などに対する対応の必要性が増えています。 
・   ㋩ 新型コロナウイルス感染症の蔓延により、従来の運営を超える「新しい展開」が必要となっています。
・   ㋥ これらを的確に・迅速に対応しないと、宗教団体・宗教法人の継続が困難になる可能性があります。    
・ ⑷ 「外部責任役員という発想 
・   ㋑ 必要な時、困った時にだけ、専門職に依頼するというのも一つの方法ですが、……。  
・   ㋺ 責任役員として専門職の恒常的な参加を求めることで、想定以上の好ましい効果が現れます。 
・   ㋩ 平常からその宗教団体・宗教法人のことを知悉しているので、非常時・緊急時にも、迅速に、適切・妥当な判断を下すことができます。   
・   ㋥ 平常から宗教団体・宗教法人の問題点を指摘し、改善を促し、時代の先端を進む運営が可能となります。 
・   ㋭ 責任役員として就任いただくことで、宗教団体・宗教法人に対して責任ある対応が求められます。
・ ⑸ 規則の規定例単位宗教法人の場合)
・    Ⓐ この法人に3人の責任役員を置く。 
・    Ⓑ 責任役員のうち1人は外部責任役員とする。
・    Ⓒ 外部責任役員は、代表役員が選定する。
・    Ⓓ 外部責任役員は、次の要件のすべてを満たす者でなければならない。
・      ⓐ 法律もしくは会計の専門職または宗教に関する学識経験者であること 
・      ⓑ 宗教の信仰を有すること 
・      ⓒ 責任役員(外部責任役員を除く。)または使用人でないこと
・      ⓓ 過去に責任役員(外部責任役員を除く。)または使用人でなかったこと 
・      ⓔ 代表役員および責任役員の配偶者または二親等内の親族でないこと  
・ ⑹ 規則の規定例包括宗教法人の場合)
・    Ⓐ この法人に10人の責任役員を置く。 
・    Ⓑ 責任役員の定数の3分の1は外部責任役員とする。
・    Ⓒ 外部責任役員は、評議会の議を経て、代表役員が選定する。
・    Ⓓ 外部責任役員は、次の要件のすべてを満たす者でなければならない。
・      ⓐ 法律もしくは会計の専門職または宗教に関する学識経験者であること 
・      ⓑ 宗教の信仰を有すること 
・      ⓒ 責任役員(外部責任役員を除く。)または使用人でないこと
・      ⓓ 過去に責任役員(外部責任役員を除く。)または使用人でなかったこと 
・      ⓔ 代表役員および責任役員の配偶者または二親等内の親族でないこと  
・  
・    

                                              (中国江蘇省鎮江市の定彗寺

Ⅶ 「宗教法人の解散命令」とは?

  1 宗教法人の解散命令

    ⑴ 解散命令の発令者

㋑ 「宗教法人の解散命令」は、裁判所の権限(管轄の地方裁判所)です。
㋺ 行政機関(例えば所轄庁)が、行政上の判断により、宗教法人を解散させられるわけではありません。
㋩ 「宗教法人の解散命令」は、あくまでも、裁判所の司法判断に基づきます。

    ⑵ 解散命令の請求者

㋑ 解散命令を請求できる者は、次のとおりです。
  ① 所轄庁(原則=都道府県知事、2以上の都道府県=文部科学大臣) 
  ② 利害関係人(信者、元信者、被害者、委託者、受託者、取引関係者など)
  ③ 検察官(公益の代表)  
㋺ 上記の者の請求がなくても、裁判所は職権で解散命令を発することができます。
㋩ 限定されるわけではありませんが、次のような請求が適正かと解します。
  ① 法令違反や公共の福祉の著しい侵害など公益にかかる場合は、検察官の請求 
  ② 目的逸脱などの場合には、所轄庁の請求
  ③ 目的逸脱などで信者らに甚大な損失が生じている場合には、利害関係人の請求
  ④ 代表役員の欠員などで法人存続の可能性がなく、
    Ⓐ 関係者に多大な損害を加える恐れがある場合には、裁判所の職権
    Ⓑ 具体的な損害を受けている信者、元信者らの利害関係人の請求 

    ⑶ 解散命令の事由

㋑ 宗教法人の解散命令を請求できる自由は次のとおりです。
  ① 法令に違反して著しく公共の福祉を害したこと
  ② 宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと
  ③ 1年以上、宗教団体の目的のための行為をしないこと
  ④ 礼拝の施設を滅失して2年以上再建しないこと 
  ⑤ 1年以上、代表役員(その代務者)を欠いていること
  ⑥ 宗教団体でないことが判明したこと  

  2 公益上の解散命令請求

㋑ 1号または2号の事由(公共の福祉侵害、目的逸脱)による
    宗教法人の解散命令の請求は、
    職務上も権限上も、検察官によるのが適正と考えます。
㋺ メディアや有識者の一部には、
    所轄庁に解散命令請求をするよう迫る傾向がありますが、    
    所轄庁の職務や権限上、適正とは思われません。
㋩ むしろ、
    これを所轄庁の責務とすることは、不適切だと考えます。   
㋥ というのは、
    この請求を行うためには、
    宗教法人の行動を掌握し監視しなければならないからですが、
    そのようなことは所轄庁には不可能です。
㋭ また、
    そのことは、宗教団体の宗教活動を含む宗教法人の行動に対して、
    所轄庁が深く関与することになり、
    憲法の保障する「信教の自由」を著しく害するおそれがあるからです。       

  3 利害関係人の解散命令請求

㋑ 利害関係人に信者を含むかについては議論がありますが、
    宗教法人法の他の規定との関係で、
    「信者その他の利害関係人」と関するのが適正だと考えます。
㋺ 「元信者」も、
    当該事由のために脱退した場合には、 
    利害関係人に含まれると解します。
㋩ 「元信者」も、
    当該事由のために除名された場合には、
    利害関係人に含まれると解します。
㋥ 宗教法人を代表する「代表役員」(その代務者)を欠き、 
    その公認を選定できる可能性がないか、著しく困難な場合には、  
    法人そのものの存続が不可能であって、
    関係者に多大な損失を及ぼす恐れがあります。
㋭ この場合には、
    解散命令によって、法人の清算に移行し、
    新しい体制で、宗教活動を再開するのが好ましいと考えます。 

  4 論考

㋑ 「宗教法人の解散命令」に関する小職の論考は、 
    『月刊住職』2022年12月号(興山舎)138〜142頁に掲載されています。

 

Ⅶ-2 「宗教法人の売買」って !?

  1 「宗教法人の売買」という問題

㋑ 巷では、「宗教法人の売買」が取り沙汰され、「宗教法人悪者論」の根拠の一つとなっています。
㋺ インターネット上では、数百万円〜数千万円で「宗教法人の売買」が紹介されています。

  2 「株式会社の売買」と「宗教法人の売買」

     ⑴ 株式会社の売買

㋑ 株式会社は営利法人であり、株主への営利の配当が目的です。
㋺ 株式会社は、営利を目的とする法人ですから、その価値も金銭的に測ることが可能です。
㋩ 株式会社の株式は、そもそも売買の対象であり、株式売買を通じて会社売買が可能です。
㋥ 平常の経済活動において、「企業買収」は通常のことであり、事業展開の一つの方策です。
㋭ 既に構築された企業組織、企業資産、人事構成、営業実績などを活用することによって、新しい分野に参入し、営業活動を拡大し、
収益を拡大させるメリットがあります。

     ⑵ 宗教法人の売買

㋑ 「宗教法人」は、「特定の宗教団体」のための財務管理などを担当する法人です。
・  Ⓐ その意味で、宗教法人自体を売買するメリットはないはずです。
・  Ⓑ 既存の宗教法人を買収しても、それを活用する道はないからです。
・  Ⓒ あるとすれば、「法律の枠を超えた目的」「法律外の目的」でしょう。
・  Ⓓ 法律外のことなので、法律上の問題ではありません。
㋺ 「宗教法人」は経済的価値を伴うものではなく、買収の対象とはなりません。。
・  Ⓐ 株式会社なら、株式の売買によって、「会社を売買」することも可能ですが、
・  Ⓑ 宗教法人は、そういう性質のものではありませんから、「法人の売買」は不可能です。
・  Ⓒ 「物の売買」は、「物の所有者」から、「物」を譲受することですが、
・  Ⓓ 「宗教法人の所有者」は存在しませんから、宗教法人の売買は不可能です。
・  Ⓔ 「株式会社」なら「総株主」が所有者とも言えます。
・  Ⓕ 「全株式」を取得すれば、会社を自己の支配下におくことは可能です。。
㋩ 「宗教法人」の場合、
・  Ⓐ 「宗教法人を売る」ことができる者はいません。
・  Ⓑ もし、「宗教法人を売った」としたら、問題です。
・  Ⓒ 「代表役員が売った」としたら、代表役員が権限を踰越。代表役員が不当な金銭を受領。
・  Ⓓ ありえないことです。

  3 「宗教法人の売買」とは……

     ⑴ 「宗教法人を買って」どうするのか?

       ① 行政の認証拒絶に対する対策

㋑ 正規に宗教法人にしたいが行政が拒絶しているので、やむなく「宗教法人の売買」を利用する……
㋺ それは誤解です。
㋩ 正当に宗教活動を行ってきた宗教団体であれば、正規に宗教法人を設立することが可能です。
㋥ 巷で言われているように「行政が新規の規則認証を拒絶している」「行政が新規の宗教法人を禁止している」ことはありません。

◉  もし、そんな事実があるなら、是非、ご連絡ください。断固、糾弾いたします。

       ② 新たな宗教活動を開始

㋑ 自ら教祖になって、新たに宗教活動を行いたい……
㋺ それは誤解です。
㋩ 「宗教法人」は、「宗教活動を行う法人」ではありません。
㋥ 「宗教活動」は、自ら「宗教団体」を設立して、開始することができます。
㋭ 「信教の自由」の観点から、「宗教活動」「宗教団体」に、法律や行政が関与することはありません。

       ③ 墓地の経営を始める

㋑ 「墓地」を作りたい。「墓地の経営」を始めたい……
㋺ それは誤解です。
㋩ 多くの市区条例で、「宗教法人に限る」旨が定められていますが、
㋥ そもそも、宗教法人は「墓地の経営を行う」法人ではありません。

       ④ 相続税対策として……

㋑ まさに「脱税目的」です。
㋺ 正しい知識なく、「宗教法人は無税」と思ってのことでしょうが、思い通りになるとは思えません。
㋩ 不動産取得税や固定資産税が非課税となるのは、「境内建物」「境内地」に限ります。
㋥ 今までの実績もなく、「宗教法人を買ったから」といって、それが通用するとは思えません。
㋭ 数百万円も数千万円もかけて、「元が取れる」とも思えません。

       ⑤ 非課税の特権を享受したいから……

㋑ 多くは、誤解に基づいているように思います。
㋺ 現実には、歴史があり、活動実績もある「正当な宗教法人」ですら、課税問題が多くあります。
㋩ ましてや、単に「買っただけ」の形式上の宗教法人で、簡単に非課税になるとも思えません。

     ⑵ どうやって「宗教法人の売買」を行うのか?

       ① 責任役員・代表役員の変更

㋑ 従来の役員を総入れ替えして、事実上、法人の売買を達成することです。
㋺ しかし、多くの宗教法人では、役員の任免権を宗教団体が有しているので、当該法人だけではできません。
㋩ 被包括関係にある宗教法人の場合、包括団体の任免にかかっていることが多く、単独ではできません。

       ② 被包括関係の廃止

㋑ 被包括関係の宗教法人の場合、包括団体との関係を絶たない限り、法人売買はほぼ不可能です。
㋺ そのため、まず、被包括関係の廃止の手続きを踏むことになります。
㋩ 被包括関係の廃止の手続きには、責任役員会議の決定、信者などの承認などが必要になります。
㋥ 信者や利害関係人に公告する必要があります。
㋭ 包括団体への通知が必要です。
㋬ 所轄庁(都道府県知事・文部科学大臣)の認証が必要です。

       ③ 目的の変更

㋑ 現在の目的とは異なるはずですから、目的の変更を行うことになります。
㋺ 法律上は、目的の変更は自由ですが、宗教の実態を踏まえれば、自由な変更は不自然です。
㋩ 仏教から基督教への変更など、明らかに不自然です。
㋥ 営利法人の場合、目的の変更は全く自由ですが、宗教法人の場合は異なります。
㋭ 目的の変更は、所轄庁(都道府県知事・文部科学大臣)の認証が必要です。

       ④ 名称・主たる事務所の変更

㋑ 他の法人と同様、宗教法人の名称や主たる事務所の変更も可能です。
㋺ 営利法人であれば、全く自由に変更可能ですが、宗教法人は異なります。
㋩ 不自然な名称変更や主たる事務所の変更には、慎重な審査がなされるでしょう。
㋥ 所轄庁を異にする主たる事務所の変更は、慎重に審査されるでしょう。
㋭ 名称・主たる事務所の変更は、、所轄庁(都道府県知事・文部科学大臣)の認証が必要です。

     ⑶ 「買った宗教法人」の行方

       ① 宗教法人の消滅

㋑ 「宗教法人」は「宗教団体の財務管理などを行う法人」ですから、
㋺ 母体となる「宗教団体」が消滅すれば、「宗教法人」も消滅するほかありません。
㋩ 残っているのは登記簿上・書類上の存在にすぎません。

       ② 宗教法人の特殊性

・ 他の法人制度からは考えられないことですが、それが「宗教法人の特殊性」です。

       ③ 「買った宗教法人」

㋑ 「買った宗教法人」とは、「宗教団体」の実態のない「宗教法人」と考えられますから、
㋺ 「宗教法人」としての存在の根拠がありません。
㋩ したがって、「買った宗教法人」は、どういう目的であれ、目的を達成することはできないでしょう。

                                               (中国江蘇省鎮江市の金山寺

Ⅷ 宗教法人の税制、非課税の特例

  1 法人税

㋑ 宗教法人は非課税のはずだが……。
㋺ 法人税法による「収益事業」の政令委任の妥当性は……。
㋩ 税務署による「収益事業」判断の是非は……。
㋥ こんなことまで「収益事業」。

  2 所得税

㋑ 宗教職の謝儀・報酬は「給与」でいいのか……。
㋺ 理不尽な宗教職の「みなし給与」……。

  3 固定資産税

㋑ 境内地・境内建物は非課税のはずだが……。
㋺ ソーラパネルは償却資産として課税……。
㋩ 公益公共のために施設を提供すると課税される……。

  4 参考文献

櫻井圀郎「沐浴道場への固定資産税の賦課」『宗教法』(宗教法学会)
櫻井圀郎「ペット供養課税処分取消訴訟判決と宗教判断基準」『宗教法』(宗教法学会)
櫻井圀郎「沐浴道場への固定資産税の賦課」『宗教法』(宗教法学会)
櫻井圀郎「資産税課税目的による宗教性判断の是非」『宗教法』(宗教法学会)
櫻井圀郎「宗教と税制〜宗教法人課税の当否をめぐって〜」
櫻井圀郎「宗教の判断基準〜行政と「宗教」の問題〜」『キリストと世界』(東京基督教大学)
櫻井圀郎「宗教活動非課税と税務当局の宗教介入」『基督神学』(東京基督神学校)
櫻井圀郎「『ペット供養』課税処分取消訴訟判決〜税務署が「宗教」を判断してよいのか?〜」『寺門興隆』(興山社)
櫻井圀郎「宗教法人はなぜ税制上の特例を受けているのか?」『寺門興隆』(興山社)
櫻井圀郎「『解釈課税』の違憲性」『京佛』(京都仏教会)
櫻井圀郎「宗教法人の公益性と地方税」『宗教と公益』(東京都宗教連盟)
櫻井圀郎「ペット供養は収益事業か」『Q&A宗教法人をめぐる法律実務』(新日本法規)
櫻井圀郎「想定外の宗教課税〜「課税リスク」と宗教法人のリスクマネジメント〜」『危機と管理』(日本リスクマネジメント学会)

Ⅸ 宗教法人か? 一般社団法人か? 一般財団法人か?

  1 「一般社団法人」とは

㋑ 。
㋺ 」

  2 「一般財団法人」とは

㋑ 。
㋺ 」

  3 「宗教法人」とは

㋑ 。
㋺ 

  4 宗教法人か? 一般社団法人か? 一般財団法人か?

㋑ 。
㋺ 

                                        (中国河南省鄭州市の祟山「少林寺」塔林)

Ⅹ 墓地・納骨堂の建設・経営

  1 「墓地」とは

㋑ 「墓地」とは、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)上、「墳墓」を設置するための土地の区域をいいます。
㋺ 一般に言われている「墓地」とは「墓地の区画」のことを指しています。法律上の用語との間に齟齬があるので、注意が必要です。㋩ ロッカー式納骨堂型の「立体墓地」と称されるものもありますが、「墓地」とは「墳墓を設置するための土地の区域」をいうので、建造物を墓地というのには無理がありそうです。
㋥ 「墓地の区画」は、通常、「永代使用」が前提とされた「使用権」が設定されています。一般に「墓地の販売」といわれているのは、「墓地(区画)の所有権」ではなく、「墓地(区画)の使用権(永代使用権)」が対象です。

  2 「墳墓」とは

㋑ 「墳墓」とは、墓埋法上、「死体の埋葬」や「焼骨の埋蔵」をする施設のことをいいます。いわゆる「お墓」です。
㋺ 墓埋法によって、「墳墓」は、「墓地」でない場所に設置することはできないものとされています。
㋩ したがって、自宅の庭や自己所有の田畑・山林などに墳墓を設置することはできません。古来のものは存在しますが、現在ではできません。
㋥ 通常、永代使用権の設定された「墓地(区画)」に自己の「墳墓」を所有することになります。借地上の建築された自己所有の建物のような関係です。

  3 「納骨堂」とは

㋑ 「納骨堂」とは、墓埋法上、「他人の委託」を受けて「焼骨の収蔵」をする施設のことをいいます。
㋺ 老人福祉施設の歓談室に入居者だった人の焼骨を安置することも「納骨堂に当たる」とされていますが、自宅の居間に家族の焼骨を安置することは納骨堂に当たりません。「他人の委託」の有無が決め手です。
㋩ 元々、墳墓が完成して、墳墓に埋蔵するまでの間、焼骨を一時的に保管しておく施設でしたが、今日では永代収蔵施設となっています。
㋥ そのため、納骨区画の販売(使用権の設定)も通常の形として行われており、「墓地(区画)の販売(使用権の設定)」と同一・同様・類似の形態となっています。
㋭ その場合、「自己の使用管理する施設への自己の焼骨の収納」であって、「他人の委託を受けた焼骨の収蔵」にあたるのか疑義があります。
㋬ 通常、ロッカー型(立体)ですが、平面式の納骨堂も理論上は可能です。「納骨堂」といい「堂宇」を想定していますが、「他人の委託を受けて焼骨を収蔵する施設」であれば「墓地上の平面の納骨堂」もありえるでしょう。

  4 墓地・納骨堂の経営とは

㋑ 「墓地・納骨堂の経営」とは、実態上、一定の収益のある有料の施設を経営することをいいます。
㋺ 宗教団体(宗教法人)が所有する信者向けの無料の施設は適用外と考えられます。
㋩ 墓埋法の改正で、都道府県知事の権限の一部が市区長に移されたことから、墓埋法の趣旨要件を超えた、市区条例による規制が全国的に問題となっています。

  5 墓地・納骨堂・焼骨の収蔵施設

㋑ 公益事業や収益事業としてではない、氏子・檀信徒・信者・教会員のための「焼骨の収蔵施設」も、一概に、「経営墓地・納骨堂」の扱いを受けていますが、適正適切な対応が求められます。
㋺ 「墓地でない墓地」「納骨堂でない納骨堂」「納骨堂様の墓地」「墓地様の納骨堂」など多様な構築も可能でしょう。

  6 参考文献

・ 櫻井圀郎「葬送法上の諸問題」『キリストと世界』(東京基督教大学)
・ 櫻井圀郎「墓地・埋葬をめぐる法律問題」『自分らしい葬儀』(いのちのことば社)

                                   (山形県鶴岡市の出羽三山神社の国宝「羽黒山五重塔」

Ⅺ 文化財

  1 「文化財」とは

・ 「文化財」とは、文化財保護法上、次の⑴〜⑹の総称をいいます。

    ⑴ 「有形文化財

① 歴史上・芸術上価値の高い有形の文化的所産(建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書など)と、
② 考古資料・学術上価値の高い歴史資料。

    ⑵ 「無形文化財」

・ 無形の文化的所産(演劇、音楽、工芸技術など)。

    ⑶ 「民俗文化財」

① 風俗習慣・民俗芸能・民族技術(衣食住、生業、信仰、年中行事に関するもの)と、
② それらに用いられる物件(衣服、器具、家屋など)。

    ⑷ 「記念物」

・ 遺跡(貝塚、古墳、都城跡、城跡、旧宅など)。

    ⑸ 「文化的景観」

・ 景観地(地域の人々の生活、生業、風土により形成されたもの)。

    ⑹ 「伝統的建造物群」

・ 伝統的建造物群(周囲環境と一体化して歴史的風致を形成しているもの)。

  2 重要文化財・国宝・登録有形文化財

・ 「重要文化財」「国法」「登録有形文化財」とは、文化財保護法上、次のものをいいます。

    ⑴ 「重要文化財」

・ 「有形文化財」のうち、「重要なもの」として、文部科学大臣が指定したもの。

    ⑵ 「国宝」

・ 「重要文化財」のうち、世界文化の見地から「価値が高い」もので、「類ない国民の宝」として、文部科学大臣が指定したもの。

    ⑶ 「登録有形文化財」

・ 「有形文化財」のうち、「重要文化財」ではないが、「文化財としての価値」に鑑み、「保存・活用」のための措置が必要なものとして、文部科学大臣が指定したもの。

  3 重要文化財に指定されると……

・ 宗教法人が所有する神像・仏像・堂宇・伽藍・経典・聖具などが、文化財保護法によって「重要文化財(国宝を含む)」に指定された場合、宗教法人は、次の制限・義務を負うことになります。

    ⑴ 自費管理

・ 宗教法人は、法令の規定と文化庁長官の指示に従って、自費で、重要文化財の管理や修理をしなければなりません。

    ⑵ 補助金の助成

・ 重要文化財の管理や修理に「費用が多額」に及び、宗教法人の負担にたえない場合には、その一部を政府の「補助金」として交付されることがあります。

    ⑶ 文化庁長官の関与

㋑ 重要文化財については、文化財保護法によって文化庁長官が次のような権限を有します。
㋺ 宗教法人は、その限度で、自己の所有する当該施設物品に関して、使用などで制限を受け、義務を負うことになります。

・  ⅰ   管理や修理の補助金を交付する条件としての指示
・  ⅱ   補助金を受けた管理や修理の指揮監督
・  ⅲ   不適切な管理に対する措置命令・勧告
・  ⅳ   国宝の毀損に対する措置命令・勧告
・  ⅴ   毀損された国宝の修理
・  ⅵ   重要文化財の現状を変更する許可
・  ⅶ   重要文化財の修理の届出の受理
・  ⅷ   輸出の特別許可
・  ⅸ   公開の勧告・命令
・  ⅹ   国立博物館などにおける公開への出品の勧告・命令
・  ⅺ   展覧会などに供覧の許可
・  ⅻ   現状・管理・修理・環境保全状況の報告要求
・  xiii   現場への立入り・実地調査

    ⑷ 権利の制限

・ 宗教法人は、自己の所有する施設物品であっても、文化財保護法によって、自由に処分などをすることができず、次のような一定の制限を受けることになります。

・  ⅰ  輸出の禁止(文化の国際交流などは例外)
・  ⅱ 有償譲渡の制限(文化庁長官の買取り優先)
・  ⅲ  公開の義務

  4 登録有形文化財に登録されると……

⑴ 所有者は、法令の規定に従って、自費で管理や修理をしなければなりません。

⑵ 所有者は、滅失・毀損・亡失・盗難があったときは、10日以内に、文化庁長官に届出なければなりません。

⑶ 所有者は、所在場所を変更しようとするときは、20日前までに、文化庁長官に届出なければなりません。

⑷ 所有者は、現状を変更しようとするときは、30日前までに、文化庁長官に届出なければなりません。

⑸ 所有者は、輸出しようとするときは、30日前までに、文化庁長官に届出なければなりません。

⑹ 所有者は、登録有形文化財の公開を行うものとされていますが、所有者の同意を得て、第三者が公開することもできます。

  5 重要文化財・国法・登録有形文化財の問題点

⑴ 文化か? 宗教か?

⑵ 公開か? 秘儀か?

⑶ 文化財の鑑賞か? 宗教的信仰か?

⑷ 神仏の聖域か? 人間の俗世か?

⑸ 宗教活動か? 公営事業・収益事業か?

⑹ 非課税か? 課税か?

教会

                                             ( 北海道・函館の日本正教会 )